佇むことしか出来ない時もある
長年の友人が結婚した。結婚願望なんかこれっぽっちもなかった彼女が、幸せだと言う。それなのに、旦那さんの体には、癌が見つかった。彼女は、笑いながら私に話す。
「始めて人に話したよ」と。
来週する手術には常時家族が立ち会わなくてはならず、もしもの時には何らかの判断を下さなければならない。
その言葉を放った直後、微笑みを浮かべる彼女の瞳から何滴もの涙が零れ落ちた。
それを隠すように親指で拭ってから、寄り一層強く、彼女は笑った。
抱き締めてあげればよかった。
と、今は思う。
でも、同情される事を嫌うあの人だから、
きっとそんな事は望んでいなかっただろうな。
目一杯働かなくちゃいけないねと気を強く奮い立たせて、私を追い越していった彼女の背中は、さっき泣いていたその人から働く女に戻っていた。
女も男も、弱さを内に隠し持っているものだ。
しかし私はこういう女を、いい女だな、と思う。
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