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みんな綱を渡っている

某俳優の訃報を受けて、当時書いた文章です。
数か月経った今、下書きに残っていたものを読み直し、掲載することにしました。
ふと足元から崩れそうになったとき、読み返そうと思います。



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みんな綱渡りをしているのだ、と思った。

別に死んでも構わないと、思ったことのない人間はそう多くないだろう。
自分なんてもの、消えても世界はたいして変わらないし、
逆に誰かの負担を軽くできるかもしれない
なんか生きるのつらいし
未来、好転するかもわからないし

生きている意味もよくわからないし

でもなんとなく踏みとどまれるのは
私の場合は、(ほんとあくまで、私の場合)
確実に悲しんでくれる人たちが何人か思い浮かぶからで

その何人かは、たぶん、私が亡くなったという報せを受けたら
数か月、いや数年間、動けなくなるほどのショックを受けるだろうと
想像できるからで

そしてもしかしたら何人かは、
私の意図せずして、私の後を追う可能性すらある、と想像できるからで

人に迷惑かけたくない、だからいなくなろう、と思うのに
いなくなることによってそんな多大なる迷惑をかける可能性がある、と思うと

何とかして生きなくちゃいけない、というよりかは
死ぬことだけは選んではいけない、と、思う。思える。


彼の演技を生で観たことは、多分なかったと思う。
ドラマもあまり見ていなかった。
彼がメインMCを務める番組が好きで、よく見ていた。
ミュージカル曲を熱唱するところはテレビで観た。
一回夢に出てきた。すごく印象的な夢で、よく覚えている。

深くかかわったわけでもなく、
思い出すのはたったこれだけのことなのに、とてつもない悲しみで、
何か書かないと耐えられないと思うほどの衝撃を受けている。

目がグルグル回る。

そして、ああ、こういう気持ちになって、引きずられてしまうのか、と
初めて実感した。

みんな綱渡りをしている、綱渡りを強いられてる状況だ。
私もずり落ちそうだ。
でも、ずり落ちてギリギリ綱を掴んでいるような状況になっても
その手を離しちゃだめだ。
私は私の大事な人たちにこんな気持ちになってほしくない。

そんなことを、こんなことが起きたことで再確認したくなかった。

誰にもいなくなってほしくない、それは私も含めての誰にも。



2020年7月18日
Photo by ‏🌸🙌 فی عین الله  on Unsplash

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