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障害者の彼はスパダリでした

私の彼は障害者です。
私の彼にはASD(自閉症スペクトラム)という障害があります。

この文章は、マイナビとnoteで開催する
「#あの選択をしたから」の作品として記載したものです。

また文章の都合上、「障がい者」を敢えて「障害者」と記載しています。


スパダリ彼氏の素性について

彼の名は「かずくん」。
大手一部上場企業に勤めるサラリーマン。
仕事に取り組む姿勢は優等生。

カメラが趣味で、写真、映像、ドローンだってなんのその。
レンズ越しで捉える繊細な彼女の表情を捉えることが得意。

ルックスは、誰もが認めるイケメンという訳ではないが、
俳優の鈴木亮平似。(あくまで彼女談)
笑うと目がなくなるところが可愛い。

筋トレが趣味で、彼女の私を軽々と持ち上げ
時には、お姫様抱っこをしてくれる。

連絡はとにかくマメ。
「おはよう」「おやすみ」の挨拶はもちろん、
私への気遣いも忘れず、見返りは一切求めない。

家事も一通りでき、体調が悪い時には、
おかゆや栄養を考えて料理を作り食べさせてくれる。

彼女が疲れた時には、マッサージで労り、
ひたすら聞き役に徹し、頭を撫でてくれる。

「こんなスパダリいるのか?」

彼と付き合う前の私だったら、
間違いなくそう問うだろう。

いたよ、いたんだ、ここに。

ただこの、スパダリ彼氏こと「かずくん」は
いきなりスパダリだった訳ではない。

むしろマイナスからのスタートだった。

対話ができないダメダメ彼氏


「かずくん」とは付き合ってもうすぐ1年になる。

きっかけはマッチングアプリだ。

付き合ってすぐのかずくんは、とにかくダメダメだった。

何となく会話は噛み合わないし、
一緒にいても何故かずっと寂しい。

ある時、大喧嘩をした私達。
彼女の家で大声で怒鳴り出ていき、
タバコを吸いにいく。

しびれを切らした彼女が家を出ていくと、
平気で彼女のベッドでいびきをかきながら朝まで寝て、
翌日、「ごめん」の一言もなくいつも通り。

ちなみにこの日、彼女は床で寝た。


「私は一体何なんだ?」
彼女は、何度も別れを考えた。

一緒にいても寂しい理由

ある時、彼から突然「話したいことがある。」
と言われた。

こんなに彼女に対して自由なんだから、
私の中では、借金、性病、浮気、
この辺りかなと思った。

「ぼく、障害者なんだ。」


その答えはなんと、自分が障害者、
ASD(自閉症スペクトラム)であることだった。
私の範疇には全くない答えだった。

ただ、一緒にいるのに何故か寂しい
会話やコミュニケーションが噛み合わないといった
ずっと拭いきれなかった違和感の答え合わせができたことは、
自分の中の大きな進歩だった。

本当の戦い、始まる。


彼と噛み合わない理由の答えは分かったものの、
ここからが本当の意味での、戦いの始まりだった。

まず私は、ASDについてとことん調べた。
インターネット、本などなど、使える情報は何でも使った。

そして彼にも、調べて分からないことは何でも尋ねた。

本当は、色んな人から意見ももらいたかったけど、
彼は障害のせいで友達がほとんどいなかった。

出会って1ヶ月もせずに付き合い始めた私は、
彼自身のこともほとんど分からないまま、
目の前にいる彼と、本の情報とを照らし合わせながら
接する他なかった。

孤独な戦い

もちろん「かずくん」が、
何も協力をしない訳ではなかった。

自分についての取説はくれるし、
「分からないことは何でも聞いてね。」と、
どちらかと言うと前向きに協力してくれてもいる。

だけど、どこか
僕には障害があるから、周りが理解して当たり前、
何かあれば、「これは障害だからできない」と理由をつけられてしまい、
どこか後ろ向きでもあり、障害を理由にされたら逃げ道もない。

肝心なところではいつも頼れなかった。

一人で孤独に悩み続ける日々


私は、「障害者だから」の一言で済まそうとする、
かずくんの彼氏としての対応にどこか納得がいかなかった。

だけど、誰にも頼れなかった。
これまで私は何か困り事があると、
家族や友達に遠慮なく相談させてもらっていたタイプ。

今回ばかりはそうはいかなかった。
だって、現実的に厳しい言葉をもらったら、
私の心がすぐにポキンと折れてしまいそうだったから。

何より、「かずくん」を障害者として
ジャッジされてしまいそうでとても怖かった。

私は人を信じられなくなっていた。

まずは彼を信じよう


これまで、散々なけんかばかりしてきた私達だけど、
改めて、彼の苦手なことを見直した。

話す言葉をその場で理解することが苦手な彼。

まずは自分の話し方を感情的にならず、
辛いことや悲しいこと、嫌なことを冷静に話すことにした。

これは私自身の課題でもある。
まずは自分が変わらなければならない。

何度もお互い泣いて、
何度も何度も対話した。
本当にもう、数えきれないくらい。

すると私達の関係に少しずつ変化が見られるようになった。

彼女の心に起きた異常


少しずつ関係が上向いていき、
以前に比べ私達の関係が穏やかになりつつあったある日。

彼女の私がうつ病にかかった。

いよいよ、これまで彼の障害に対して背負ってきた部分が
支えきれなくなった。

もうこれ以上は私一人では頑張れない。

私は彼に別れを告げた。

別れ

「別れよう。」

そう一言告げると、
一言、
「みいちゃんはそれでいいの?」
と私に尋ねた。

これまでたくさん色んなことがあった。
まだ付き合って1年だとは考えられないくらいの
ぶつかり合いも対話も山ほどした。

嫌だ、本当は嫌だよ。
そんなの分かってる。

けど、ごめんね、かずくん。
もう私一人では支えてあげられないんだ。

「私は、障害者であるかずくんをもう支えてあげられないよ。」

彼の決意

すると彼からこう返ってきた。

「今まで僕は、たくさんみぃちゃんに迷惑をかけたし、
たくさん、たくさん泣かせてきた。ごめんね。
けど、みぃちゃんは一人じゃないよ。
僕は何があっても一緒にいるから。
だから、一緒に病気も乗り越えていこうよ。」

やっと彼と分かり合えた瞬間だった。





障害と向き合う本当の意味


彼は言った。

私たちは障害に向き合うどころか、
目を背けてばかりだった。

今度こそ本当に向き合おうと決意した。

それからは、私も病気で辛いことはなんでも話した。
「辛い」「寂しい」「怖い」「しんどい」「不安」
言葉を並べれば並べるほど、
メンヘラのかまってちゃんだ。

事実メンヘラなのだが…。

そして、彼はスパダリ彼氏になった

彼氏。
彼には本当に頼りになっている。



世界に優しさを配るとASDの彼と誓った日