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マンション天井防音の最新研究

木造住宅の薄型防音室以上に難しいのが「マンション天井防音」です。

比較的新しい工法ほど、天井の防音施工の難易度がアップします。アンボンドPCスラブ、ボイドスラブ、ハーフPCスラブなど、壁際の躯体に梁がない工法は、大きな制約となり、私が開発した最新工法も受けとなる軸組を新規で構築するなど、内装と既存軸組(とくに軽鉄)との処理が複雑になります。

複雑化するほど、費用が嵩むだけでなく、防音設計と工事をセットで出来る専門業者が、現在では私以外に数社しか居ないという状況になりました。そのうち1社は既に専門施工チームを解散しているので、残りは私を含めて、東京では2社程度と言えるかもしれません。

上階からの衝撃音が響きやすいスラブ工法

アンボンドPCスラブ、ボイドスラブ、ハーフPCスラブおよび通常スラブ(現場打ち)に大別されますが、この中で最も上階や隣接住戸からの足音や家具などを引きずる衝撃音(振動音・固体音)が響くのが「ボイドスラブ」です。

その次にアンボンドPCスラブが、現場経験では響きやすいと言えると思います。最も対処しやすいのが通常スラブです。

通常スラブ工法以外は、基本的にアンカーなど金物を増設するだけでなく、ビスを使用することも難しいです。東日本大震災以降、天井スラブだけでなく、共有の躯体壁の金物使用は許可されない場合が多いです。

このため、躯体と絶縁した新規の軸組を構築したり、既存の間仕切り壁や下り天井を補強して、横架材などを接続する工法しか対処できません。

使用する防音材(遮音材・制振材・吸音材)も限定され、通常の市販品では対応できません。※吸音材のみ市販品を併用できます。

複雑な軸組構築は軽鉄では出来ない

木材で軸組を構築するため、最大スパンは4メートルです。これ以上のスパンは天井が撓んだり耐久性が問題になるリスクが有り、私の防音設計では制限しています。木材の既製品は4メートルまたは3メートル材ですので、この長さが基本になります。

軽鉄は音が響きやすく、天井との接触をなくすような絶縁工法が出来ないので住宅の防音工事では使用できません。あくまでオフィスビルや商業施設に限定されます。

木材の場合は、比較的低い天井でも、継ぎ手などを駆使して軸組を構築できる利点があり、腕の良い職人であれば対応できます。鉄よりも音を吸収できるので防音工事には有利です。

最新の研究事例を適用して防音相談の案件に取組んでいる

現在、「どうしても防音工事をしたい」というご要望があり、2件だけ防音相談をお受けすることになり、このうち1件が契約になりました。工事は来年の予定です。

ですが、金額が嵩むので、費用を捻出できる施主に限定されます。また、施工できる部屋の優先順位を決めないと計画できません。

すべての居室を防音するのは技術的にも予算的にも厳しく現実的ではないです。絞り込む検討作業が必要であり、防音計画の立案と設計・施工仕様を作り上げる作業に最も時間がかかります。

もう私も、体力的に難しい案件を複数抱えての本業の防音設計は厳しく、あと何年やれるのか、分かりません。

本当は「好きな木造音楽室の設計」だけで、余生を過ごしたいと考えています(笑)。

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