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木造防音室のコンパクト防音設計

「防音室業界が今まで薄い高性能な音響・防音施工を実現できなかった原因は、素材(防音材を含む)の持つ周波数特性を踏まえた相乗効果、コインシデンスの回避対策について研究してこなかったことにあると思います。」
「費用対効果の小さい遮音パネル(鉛ボード、樹脂ボードなど)、遮音シート(厚さ1.0~1.2ミリ程度、面密度2.0~2.5kg/m2程度)、遮音ゴムパッキンに依存し、石膏ボードとグラスウールを重ねるだけの古い遮音設計マニュアルに支配されていたからです。」

上記の文章は、木造防音室を薄い構造でコンパクトに防音設計・施工するための重要な説明文で、防音職人のホームサイトの本文に記載されています。

これは、私が、現在の取引先の防音材メーカーの製品を現場で使い始めてから、約28年以上経過しますが、業界の現状は殆ど変わっていません。

その主な原因は、「木材の特性」や「木材と防音材の相乗効果」について軽視してきたことによるものです。木材は遮音性が弱いという偏見・間違った認識が独り歩きしており、ネット上でも拡散しています。そのような認識を持っている専門業者は、木造防音室の設計理論が間違っています。
優れた防音材は、現在でもあるのですが、大半が受注生産になっていますので、一般市場には出ていません。特定の企業が使用しています。

また、通常、防音材は複数の製品を組合せて使用しますので、設計仕様・施工要領が不可欠です。どんな専門業者も、この内容を無料相談やウェブサイトで公開することはありません。企業秘密になっています。特性の異なる防音材や建築材を併用することが、薄型防音構造の要です。

私の知る限りでは、上記のようなコンパクト防音設計ができる専門家は、現役では「防音職人」以外は、すでに活動を停止しているようです。
エンジニアは高齢化しており、技術は継承されることなく、書籍にも記されていません。特殊な業界と言えると思います。ただし、ネット上のウェブページに断片的にコンテンツが残っていますので、ある程度は集めることが出来ると思います。

なぜ、大手企業は専門家と契約しないのかというと、コンパクト防音施工そのものが利益を追求していない事業だからです。企業にとって余り利益がないのです。

狭い音楽室と薄い防音構造

狭い音楽室など小規模な防音室の設計・施工は難易度が高い割に利益率が低いので、大手の専門業者や建築会社は、本気で取り組みません。

そのため、余計に技術力をレベルアップさせる努力をしないのです。小さな木造ピアノ室は、音響と防音のバランスを確保することが非常に難しく、たくさんの現場を経験して、精密音測定など事例分析をストックして検証しないと優れた技術は生まれません。

語弊がありますが、手間はかかるが儲からないのです。いつの間にか、私の運営する防音職人には、難しい案件が集まるようになりました。

約6帖の木造ピアノ室の防音壁を厚さ20センチ程度で構築すると、約4.5帖程度の空間になります。ピアノを置くと、家具が殆ど置けないなど、ピアノ教室として生徒さんの座るスペースも確保できません。そのような防音設計をピアノ教室の先生が望むでしょうか?

防音職人では、数多くの現場経験と研究事例により、木造軸組在来工法の小さなピアノ室を、防音壁約45ミリ程度で、D-50レベルの遮音性能を確保出来る設計仕様・工法を開発しました。それは、音楽教室の先生や趣味の音楽ユーザーの希望に応えるために生まれた技術です。

薄くても「遮音」「制振」「吸音」の原則を考慮して設計し、きめ細かな施工要領も作成しています。

設計仕様の工夫と防音材開発

防音設計と工事に不可欠なのが、専門的な防音材ですが、現在の大半のメーカーは「空気音の遮音」と「軽量衝撃音対策」にシフトして、製品開発を行っています。利益優先の製品開発と言えます。

そこで、防音職人では、建築以外の分野での防音材に注目して製品を探してきました。組合せ方によって、「重量固体音の減衰」「共振の抑制」の効果が高まる受注生産品を確保して、20年以上、現場で使用しています。

これと一般的な建築材の中で、音響調整と制振補強が出来る製品を選んで、組合せた結果、生まれたのが「コンパクト防音設計」です。

ですが、特許申請はしませんでした。申請すると、すべてコピーされてしまうからです。

受注生産のメーカーの製品のうち、私の個人的な要望から生まれた制振材もあります。ですが、単価が少し高いため、DIYで使用するユーザーは殆ど居ません。それは安い代替品を持っているので、安い製品ばかり購入希望の依頼が来ます(笑)。世の中、不景気なので、どうしても小さな注文が多くなります。

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