見出し画像

no.10 -音楽のジャンルレス化・世界情勢と共生の音楽-

2010年頃からであろうか?
クラブミュージックの領域では、今まで厳然と分かれていたテクノやヒップホップというジャンルが溶け始め、一体となり始めた。人々はベースカルチャー(低音が強調され太く鳴る音楽)や、EDMという、より大きなジャンルのくくりにして音楽を発展させてきている。もうかれこれ10年も経ってしまった。

さらに、クラブミュージックに限らず、音楽が最近ジャンルレス化し始めた。

理由が2つあると考えられる。

一つは、音楽を聴く場が大規模フェスへと移行してしまったので、リスナーが一つのフェスで様々な形態の音楽を聴くようになったことがある。

もう一つは、CD文化が終わり、ストリーミングで音楽を聴くライフスタイルが日常化し、データベースにある音楽をプレイリストで再生することにより、音楽ジャンルが全体的に消えつつあることが挙げられる。

さて、アメリカ西海岸の音楽に目を向けると、カルロス・ニーニョという才人がいる。彼はファラオ・サンダースやサン・ラ、といったレジェンドをリスペクトしながらジャズに電子音楽的な要素を混ぜ、新たな音楽をつくる試みを行なっている。

2016年に発表された、Carlos Niño and Friends の"Flutes, Echoes, It's all happening" というアルバムには、2000年辺りに興隆したMadlibや、今をときめくサックス奏者、Kamasi Washington など沢山の鬼才がアンビエント&ジャズ、電子音楽の新境地を開拓している。

彼は1995年から20年間西海岸で影響力のあるラジオショーSpacewaysを放送していたそうだ。非常にスピリチュアルな音楽を志向し、現在も様々な名義で活動している。代表的なのは、Build An Arkであろう。

スピリチュアルジャズ、というジャンルは、1960年代のジョン・コルトレーンの意思を継いだファラオ・サンダースや、様々なジャズミュージシャンによって、愛と平和を体現する音楽としてアンダーグラウンドシーンで発展した。

カルロスはそうした1970年代に勃興した音楽にリスペクトしつつ、現在の音楽に昇華させようと挑戦している。フライングロータスとも共演しており、西海岸の音楽シーンの懐の深さには驚きを隠せない。

自然音などの環境音楽も混ぜ込むという試みは、音楽をより生命的に捉えながら、西海岸の精神的伝統である「外界世界への拡張」を意図しているのだろう。アメリカにおいて、西海岸はオープンマインドな傾向があり、自由な発想がある。

そしてこの西海岸は、全体主義が世界を脅かす現代において、人の融和や共生のテーゼを提供する音楽シーンなのかも知れない。

移民で構成されるアメリカにおいて、最近のブラックミュージックに垣間見える傾向は、ソウルやR&Bの世界では、ゴスペルミュージックを基調とした音楽が増えたことだと言われている。
例えば、今大変人気の高いFrank Oceanもゴスペルライクな音楽を作っている。

もともと、サム・クックが1960年代にR&Bにゴスペルの要素を取り込むという、教会側からは異端視された行為がきっかけだったが、その後ブラックミュージックは、ゴスペルと歴史的に密接な関係があった。

ここ数年、より彼らの音響が「救い」の方向に来ているのは、現在アメリカが抱える人種間の問題と関係のあるようだ。

また、ジャズの世界もより黒人のアイデンティティを強調する音楽が増えてきたように感じる。

1960年代の公民権運動のときもそうだが、”Black is beautiful”という標語が生まれ、自分達のアイデンティティと音楽を直結させる意識が際立ったそうだ。当時アメリカにいたジャズミュージシャンの秋吉敏子氏は、日本人ということでジャズクラブでの演奏を規制されたりしたそうだ。

現代は、ジャズを含めアメリカの音楽は世界の音楽になってしまったので状況は変わったが、グローバリゼーションが高まると、ローカリゼーションも比例して高まるという現代の趨勢を音楽も反映しているかのようだ。つまり、政治的な国境封鎖、自国第一主義、民族間の意見の齟齬が、音楽にも反映されてしまうという現実はあるということだ。

昨年グラミー賞を取った、Childish Gambinoの"This is America"は衝撃の映像で、今のアメリカの世相を赤裸々に表現した問題作だった。

これだけ地球環境問題や、AIなどのテクノロジーが社会的変化を急速に加速させる現代において、人間の存在のあり方を意識的に変えていく必要のあるのではないか?

地球環境や巨大なテクノロジーの発達の問題は、自分一人ではどうにもならないし、より人々の連帯や共感が大切な時代が現代だ。人間が地球と共生していくことを真剣に考えなければならない時代である。現代においては、ボーダー(境)を人と人の間に作るのではなく、人々の考え方の融和を音楽にしている方が意義があると思う。

音楽は心を癒したり、人々を繋げる力に私は可能性を感じるので、そうした音楽が2020年も増えていくことを望む。

イギリスのニューカマー、Fred Againという人がいる。
彼の音楽に融和を感じ、最近ものすごく感動したのでお届けしよう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?