昔のこと。

隣の部屋で誰か倒れた。

ワンルームマンションの一室で、夜中二時過ぎに聞いた音を不振に思っていた。ワンルームマンションのため、隣の部屋はわたしの住んでいる居住スペースではない。気にはなるけれど、おいそれと見に行けるような環境ではないのだ。なによりも音の正体がよくわからなくてこわかった。

玄関扉の覗き穴からそっと外を覗く。なにもない。真夜中だというのに煌々と照っている照明が狭い廊下を照らしていて、隣の部屋の扉も閉まっているのがみえた。しばらく見ていたけれど、扉が開くことはなかった。

なんだ。気のせいだったのかもしれない。

そう思ってまた読書に戻る。夜は静かだから、好きな本をじっくり読めて気分が良い。お気に入りの作家の小説本は面白くて、すぐにのめり込んでいった。

だからわたしは朝になるまで知らなかった。

その日の夜、隣の部屋では父が死んでいた。

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