冬毛が目立つ馬の取捨を考える
(1)冬毛とは何か
1口馬主のカタログ写真やツアーでの募集馬写真を見ていると、ときおり冬毛が目立つ馬がいます。
まず、この冬毛とは何か、について説明したいと思います。
たとえば、上の写真はノルマンディーで募集のプラチナムーンの16(競走馬名プティリュシオル、牝馬、父ベーカバド)です。
胸から下腹、後肢にかけて全体的に長い毛でおおわれています。
これが冬毛です。
冬毛が生える理由としては、第一に冬の寒さから身体を守るためというものがあります。
また、冬季には新陳代謝が落ちるために、このような毛が生えるのだとも。
いずれにせよ、冬毛が生えている馬はあまり見栄えがよいものとはいえず、1口馬主でもこのような馬はあまり人気がないことも多々あります。
(2)冬毛は飼育担当者のブラッシング不足
いま『サラブレッドに「心」はあるか』(楠瀬良、中公新書ラクレ、2018年刊)を読んでいます。
楠瀬良という方は、日本装削蹄協会特別参与、農学博士・獣医師という肩書と資格を持たれていて、プロの競走馬研究者です。
競走馬で冬毛が目立つ原因は牧場担当者のブラッシング不足によるもの、とこの本では書かれています。
丹念にブラッシングを施して、馬のケアを怠らず、馬とのスキンシップを常日頃から図っている牧場の馬の多くはおとなしく、人間の指示をきちんと聞くことが多いとのことです。
このような馴致の行き届いた牧場の馬は、調教やレースで騎手の指示に従い、自ずとレースパフォーマンスも向上するものと推測されます。
ですから、冬毛が目立つ馬は単に見栄えの問題ばかりではなく、選馬の基準として重要なファクターになる。
そう考えています。
社台サラブレッドクラブの募集馬写真に冬毛の多い馬が多く、これが近年、社台ファームが低迷していることに関係しているのではないか。
このような勘繰りさえしてしまいます。
(3)冬毛が目立つ馬とレースパフォーマンスとの相関関係を考える
ちなみに先に紹介したプラチナムーンの16(競走馬名プティリュシオル)の競走成績を調べてみると、以下のような結果となりました。
地方で11戦0勝 [0-1-1-9]。
2018年11月23日の園田での2歳四組二(ダート1400m)のときの2着が最高着順で、正直、パッとした競走成績ではありません。
あのような冬毛がぼうぼうの馬だから当然。
そう考えるのもいささか短絡です。
競走馬のレースパフォーマンスを決定するのは、さまざまなファクターがからみあってのものなのだから。
それでも、冬毛が目立つ馬は気になります。
そこで、検証してみました。
まず、「冬毛が目立つ」という定義があいまいで、たぶんに主観的な要素が入ります。
「冬毛が目立つ」と言ってもどこまで許容範囲内に収まって、どこからが問題なのかという全引きができない。
である以上、データを集めて統計的な処理を施すことも不可能になります。
そこで、検証方法は以下の単純なやり方を試みました。
「冬毛が目立つ馬」という単語をネットで画像検索してみてヒットした上位の馬で1口馬主クラブに絞って、競走成績を調べてみるという方法です。
もちろん、このやり方でも問題がないとは言えません。
検索上位にくる馬は何かと話題を集める馬になるケースが考えられ、そうするとこのような馬の成績は比較的良好となる。
このような偏向が生じるのではないか。
また、検索上位にくる馬はこの写真をUPした人のある特定の属性によるもので、こうしてヒットした馬がフェアで客観的な基準で選ばれたことを保障するものではない。
などなど、厳密にケチをつければボロが出るやり方であることは間違いありません。
しかし、試してみる価値はありそうです。
(4)検証結果
①レセヴィブレ09(競走馬名競走馬名サクシナイト、牡馬、父ストラヴィンスキー、社台ファーム生産、グリーンファーム愛馬会募集)
https://blog.goo.ne.jp/bell0531/e/f8e9702c6cd02d60a605a7c2fd78cd8b
競走成績:7戦0勝 [0-2-1-4]
この記事のブログ主さんも、牧場訪問の際、レセヴィブレ09について「冬毛が目立っています」とコメントを書かれています。
「冬毛が目立つ馬」のワードで画像検索一発目が社台ファーム生産馬、というのは、先ほどの「これが近年の社台ファームの低迷に関係しているのではないか」という指摘が思い出されて、ちょっと嫌ですね。
この馬、レセヴィブレ09(競走馬名競走馬名サクシナイト)は未勝利に終わっています。
②コイウタの14(競走馬名、ユラノト、 牡馬、父キングカメハメハ、社台ファーム生産、社台サラブレッドクラブ募集)
こちらの馬もブログ主さんは「冬毛が残っていて見栄えはしません」と評されていて、それゆえ人気もなさそうとのこと。
ちなみにクラブの1歳募集時カタログ写真はこちら。
このユラノトつい最近引退した馬で、オープンにまで行き、出世した当たり馬といっていいでしょう。
競走成績:16戦6勝 [6-3-2-5]も立派。
オープンのマリーンステークス(函館ダート1700m)に優勝し、G3根岸ステークス(東京ダート1400m)2着、G1フェブラリーステークス(東京ダート1600m)3着の実績もあります。
「冬毛が目立つ馬」で検索して、またまた社台。でも、こちらは活躍馬です。
「冬毛が目立つ立つ馬」=走らない=1口馬主で出資見送り
という単純な公式が当てはまらないのは、選馬の難しさです。
③ビジュアルショックの17(競走馬名レッドルピナス、牝馬、父ディープインパクト、社台ファーム生産、東京サラブレッドクラブ募集)
https://www.tokyo-tc.com/syozoku/redlupunus/
こちらは、東京サラブレッドクラブの公式ホームページがヒットしました。
2020年3月20日のクラブコメントに「冬毛が目立ち、毛ヅヤもよくなってこないため帰厩するにはもう少し時間がかかりそうです」とあります。
レッドルピナスは2020年2月2日に東京3歳新馬戦(芝1600m)でデビューして3着。
順調であれば、近いうちに勝ち上がれるでしょう。
それにしても、またもや社台ファーム。なんでなんでしょう?
④ディオニージア 11(競走馬名レッドイルヴェント、牡馬、父フジキセキ、社台ファーム生産、東京サラブレッドクラブ募集)
「冬毛が目立って見栄えがしませんが、まずまずではないでしょうか?△」というのは、1歳募集時DVDを見てのブログ主さんの評価。
こちらが1歳募集時写真。確かに冬毛ぼうぼうですね。
気になる競走成績は、15戦0勝 [0-0-1-14]で、う-む、これはイカンです。
そして、生産はまたまた社台ファーム。冬毛生産牧場という名称に変えてもらいたい。
⑤ダルタヤ15(競走馬名ダカーポ、牝馬、父ディープインパクト、社台ファーム生産、社台サラブレッドクラブ募集)
ブログ主さんは、「100万円でも安いくらいの血統ですし、良い馬ですよとの推しコメントあり。まだ少し冬毛が残っていますね」との牧場関係者情報と馬体報告を書かれています。
また社台。なんだか、もうこれは確信犯としか思えない(笑)。
こちらは、ダカーポの1歳募集時写真。
この写真でも確かに冬毛の多さが目立ちます。
競走成績:3戦0勝 [0-0-1-2]。
1口100万円もした馬が結局、未勝利。
「良い馬ですよ」という牧場情報は当てにならないことがこの一件で明白となりました。
(5)まとめ
「冬毛が目立つ馬」のワードで画像検索で5頭調べてみました。
ズバリ「冬毛が目立つ」と書かれていた馬は4頭。
結果、オープン馬1頭、未勝利馬4頭という両極端となりました。
率としては、オープン馬1/5だから、悪くはない。
したがって、
「冬毛が目立つ立つ馬」=走らない
は短絡で、冬毛とレースパフォーマンスとの関係は慎重になったほうがよいだろうと思います。
ただし5頭すべてが社台ファーム生産馬というのには、正直驚きました。
社台ファームが多いだろうとは、あらかじめ予想していたことですが、調べた馬すべてに該当するとは思いませんでした。
社台馬に「冬毛が目立つ」がなぜ多いのか考えてみます。
まず、第2章で紹介した『サラブレッドに「心」はあるか』の著者である楠瀬氏の指摘「冬毛が目立つ馬は牧場担当者のブラッシング不足によるもの」に立ち返りたいと思います。
これは社台ファームのスタッフが馬と向き合う時間が他の社台系牧場に比べて少ないのが要因ではないでしょうか。
社台ファームの調教坂路には屋根がない。
北海道は冬季に降雪がある。
牧場スタッフは調教コースの除雪作業に時間を多く取られて、その分、養育馬に対するブラッシングなどのケアに要する時間が不足気味になる。
こうした背景が社台ファームの生産馬に冬毛が多い、冬毛が目立つという事象となって現われていると推測します。
このように馬と人が向き合う時間が少なければ、冬毛だけででなく、馬のさまざまな心身の発育に悪い影響を及ぼすことは想像に難くありません。
「冬毛が目立つ馬」が人気のないのは、馬の見た目の印象のみではない、説得力のある理由があるように思われます。
しかし、会員が敬遠するからこそ、人気の盲点となり、ユラノトのような活躍馬をゲットできるチャンスもあるということです。
今回の考察はここまで。
競走馬の冬毛については今後とも大きなテーマとして考えてゆきたいと思います。
読者のみなさまも何かご意見があれば、コメント欄に書いていただくとありがたく存じます。
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