見出し画像

私の中の柔らかい場所 2

---section2---

今まで散々モロッコについては地球の歩き方やネットや、行った人の話しを聞いただけで
自分が肌で感じた体験はこれからだ。


私はアラビア語もフランス語もほぼ分からない、英語も何とか通じる程度の語学力なのだ。

言葉が通じないと言うのは何とも心許ないが、同時に様々な言葉のしがらみから解き放たれた様で、爽快でもある。


セキュリティチェックを終えて、空港の外に出た。


太陽が寝ぼけ眼の目に痛い。
強烈な太陽の光が肌をジリジリと焼く。

空港を出たら
依頼していたドライバーが迎えに来ているはずだ。


ドライバーの顔は、申し込みの際に事前に知らせてあったのですぐに分かった。

だが、話し掛けるのに少し躊躇してしまった。

日本にいるとアフリカ人との交流の機会はほぼ無い。

だが、こちらから話し掛けるまでも無く、相手方は私に気づいて人懐こい笑顔で話しかけてくれた。

年齢は30代いくかいかない位だろうか、
何だか日本人にもいそうな顔立ちで、アフリカ人は一般的に肌の色が黒いイメージだったが彼は肌は白かった。


「ハロー、ソノコサンデスカ??」
と意外にも日本語で話しかけられた。
「イエス、フワッツユアネーム??」

念の為に確認をした。

「I 'm Mohamed」
「ナイストゥーミーチュー
ウェルカムトゥモロッコ!!」
彫りの深い顔立ちで、どちらかというとハンサムな彼の満面の笑顔がとても眩しかった。
寝ぼけて頭が朦朧として、目もしょぼついた化粧が剥げかけの私が何だかとても恥ずかしく、彼とまともに目が合わせられなかった。

モロッコの人々の顔立ちは、アラビアとも言い切れず、アラビアとヨーロッパとアフリカを掛け合わせた様な雰囲気の人達が多い。


「さぁ!行きましょう!」

モハメドは私のスーツケースを引いてくれて、車まで案内してくれた。

多少の簡単なフレーズの日本語は話せる様である。

試しに日本語で話しかけてみたら、それは聞き取れない様であった。

一路マラケシュまで、3時間のドライブである。

少し寝たいなぁ。飛行機の中でもウトウトはしたが、ほとんど寝ていない

しかし依頼したドライバーとはいえ、
初対面の人の車の中である。


閉じそうな眼を一生懸命開けながら、
彼のハンドルに掛けた手を見つめた。

意外に繊細な事が得意そうな細く長い指をしていた。

アフリカ人男性の手はもっとゴツゴツして力強そうなんじゃないか

そう勝手な思い込みをしていた。

肌は黒いとは言えず、日本人の色黒の人と同じ位の褐色の肌

黒では無い、澄んだ茶色で色素の薄い目をしていた。

普段日本では触れ合う機会は無い、間近で見るアフリカ人男性をマジマジと見つめていた。

私の視線に気づいたのか、ミラー越しにモハメドは軽く微笑んだ。

何だか急に恥ずかしくなってしまった。

中年女が、若い男性を物欲しそうに見つめていた様に見えただろうか。

幾らこちらはお金を払って依頼しているとはいえ、向こうはビジネスとは言え
男と女なのだ。

変に誤解を与えてはいけないな。

途端に私は眼を逸らして、窓の外を見つめた。

荒野という言葉がぴったりのアフリカの風景が車窓越しに広がる

とうとうアフリカまで来たな

ふと、数ヶ月前に別れた陽介の事を思い出した。

陽介は私より10歳若い同じ会社の女性と浮気して、相手が妊娠してしまったのだ。

たった3回彼女とセックスしただけで、子供ができたのだ。

私は怒る気にもなれなかった。

それが陽介とその彼女の運命なんだろう。

そして、私の。

思い出すと、ふと胸から下腹部にスーッと冷たい空気が通る様な諦めと悲しみの気持ちが湧き上がってくる。

何故、なぜなんだ。

8年も付き合っていたのに。

実は一回陽介の子供を妊娠した事がある。

しかし、妊娠初期に流産してしまったのだ。

もしあの子が生まれていたら、今は5歳になる。

生まれてくる事、死ぬ事さえ運命なのだろう。

ふと記憶の断片を辿りながら、彼とのセックスを思い出してみた。

しかしあんなに数えきれない位に交わったのに、陽介とのセックスがどんなものだったか思い出せないのだ。

ふと涙が溢れて、モハメドに気づかれない様に下を向いた。

かなり疲れていた。ふっと気が遠くなった。



「ソノコさん」

呼び掛けられ、眼を開けた。

寝てしまっていた様だ。

涙が溢れた直後、少し目を閉じていたらそのまま寝てしまったのだ。


きっともうアイメイクも滲んでひどい顔だったろう。


本当は途中のカフェに寄ろうとしていたけど、寝ていたからマラケシュまで来たと言われた。

「Ah, ok」

とりあえず早くシャワーを浴びて、一眠りしたい。

汗ばんだ身体が気持ち悪い


素敵な中庭を囲み吹き抜けになっているリアドに到着したら、ミントティーとクッキーが出てきた。


高い位置から可愛い模様のカップにミントティーが注がれる様子を見ながら、よく溢さずに注げるものだなと感心していた。


モハメドは、30分後にここに迎えに来ると言って出て行った。
ジャマ・エル・フナ広場に散策に行くそうだ。


宿帳に記入を終えると、ミントティーを口に流し込みんでホロホロと口の中で崩れるクッキーを口に入れた。

ミントティーの爽快感と、かなり濃いカフェインがガツンと胃に刺激を与えた。

ミントティーを一杯飲み終わると部屋に向かった。

窓から夕方の光が赤い透けたカーテンから入ってくる、薄暗いがとても雰囲気のある部屋だった。


急いでシャワーを浴びた。
想像通り、お湯になるまで時間がかかった。

諦めて冷水のままシャワーを浴びた。
寝不足の身体に刺激が強いが、目が覚めた。


急いで服を着替えて、先ほどミントティーを飲んだ中庭まで降りていく。

モハメドはリアドのスタッフらしき男性と話し込んでいた。


「イキマショウ」

独特のイントネーションだが、たまに日本語を聞くと安心するものだ。

彼は簡単な日本語しか話せないのだが。



この小説を読んでのご感想などもお待ちしています。 もしよろしければご支援頂けますと、泣いて喜びます✨✨これからの私の創造的な活動に使わせて頂きます😊