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「明徳」

ん?  ここはどこだ?  傍らにはラクダがいる。
その側には水を飲んでいる遊牧民らしき人が....
ああ!  水筒からこぼれた一滴の水が落ちて、
俺は目を覚ましたってわけか。
ところで、俺は誰だ。
見渡しても、砂漠と空しか見えんな。

お、砂漠の民が移動しはじめるようだ。
いや、ちょっと待ってくれ。
俺をここに置き去りにするつもりか。
うーん、まったく気づかぬようだ。
….ということは俺は人間ではないのか。
やがて夜になり、満天の星が姿を現した。

考えても考えても俺が何だかわからない。
すると、渡り鳥が現れ、側に何かを落とした。
何か植物の種らしきもの.....「!」
ああ!  俺は発芽したってわけか。
しかし、雨の気配はないし、さてどうする。
まあ、今日は寝ることにしよう。

あまりの暑さに目が覚めた。
雨は望めぬ、となると、裡しかないな。
命の限り、日々少しずつ根を伸ばすことにした。
どれほどの月日が経ったのだろう、
ある日、足に何かが触れた。
水だ!

それからというもの
息を吹き返したように、
空へ向けて背を伸ばしはじめた。
ぐんぐん、ぐんぐんと、果てしなく。
胴体も太くなり、縦ばかりではなく
横にも、ぐんぐん、ぐんぐんと。

木陰ができるほどになると、
沢山の鳥もやってくるようになった。
気づけば、花を咲かせ、実を成らせている。
ふと、空を見上げると、暗雲が立ち込めている。
カミナリだ!  雨が降るのか!
と思った瞬間、滝のように降り出した。

無尽蔵の地下水源が、俺を通じて、
空と呼応しはじめたってわけか。
オアシスはいつの間にか森へと変化していた。
鳥もいれば、動物も、虫も、それに、
沢山の人々も集っている。
誰も砂漠だったことなど知らない。

ふと、目を覚ました時のことを思い出していた。
いつかまた砂漠になる日がくるかもしれない。
しかし、そうなったらそうなったで、
道は見つかるってもんさ。
木の根元では気持ちよさそうに子供が寝ている。
さて、どんな夢を見ているのだろう….