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千姿万態

 幼い子どもが覚えたての言葉を意味もかまわずに調子をつけて無心に口ずさむのを「星が彼らの口をかりて語る....」と昔の人はいった。幼いものがそうして語りかけた対象は、あきらかに特定の人ではない。いや人でさえない。樹々や動物や鳥や風にも向かっている。彼らの心の底には、森羅万象が自分を含めて一つの生命のつながりであって交流は当然だと素朴に信じている力がある。

 辻まことさんの『夢二の詩』の中の言葉である。「素朴に信じている」のは「おとな」である筆者だろう。「世の中には、完全な子どももいないように、完全なおとなというものもいない」と続く。そして、竹久夢二の「定めなく鳥や行くらん青山の 青の行く末限りなければ」という「詩」が引用されている。

 辻潤と伊藤野枝の間の子供だったり、絵を描き文章を綴り、ギターを弾いて歌い、金鉱探しに明け暮れたと思えば、歩荷をやったりと、千姿万態の姿に惹かれた数多の文章があるが「辻まこと」という山の頂には、無数の取り付きこそあれ、辿り着くことはできないのではなかろうか。誰もが山であるように。

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絵: 辻まこと (上 / 見出し画像: 詩集『ゴリラ』山本太郎)

*辻まことのギターと歌 > http://kotomi.fan-site.net > つれづれに 46