観照
ひとつの見方が生じれば、同時に無数の別の見方が生じる。本の背表紙に「ジェーン・グドール」の名を見つけ、手に取り、本を開いたら署名があった。『森の旅人』という本を読んだことがあるが記憶はおぼろげである。読み進めるとルイス・リーキーという著名な古生物学者、文化人類学者との邂逅により、道が拓けたとの記述があった。つい最近、ルイス・リーキーのご子息であるリチャード・リーキーの『ヒトはいつから人間になったか』という本を読んだばかりである。
その本の中でリチャードはデリック・ビッカートンという言語学者の「言語こそが、人間以外のあらゆる生物を拘束する直接体験という監獄を打ちこわし、時間や空間に縛られない無限の自由へとわれわれを解き放ったのである」という見解を引用している。「いや、その逆も然りなのではないか」との見方が浮かんだが証明しようがないのは変わらない。面の無い球体が多面体へと変化すれば無数の彩りを放つ。常に無言の自然の営みと少し似てはいないかと春霞の空を眺める。