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 鳥が一等地に巣を作った。それを見た土地の所有者である男が冗談交じりに賃料を請求した。すると、驚いたことに鳥が「地球は誰のものでしょう?」と答えた。言葉を教えられた鳥が逃げたのか、それとも... 「『人間』も『鳥』も本来存在しておりません。すべては名無しの生命の表現に過ぎません」との声が背後から聞こえてきた。振り返るとそこには猿がいた。

 男ははっと目が覚めた。山でビバークしていたのだ。昨日の嵐が嘘のように晴れ渡っている。いや、待てよ。昨晩、俺はしこたま飲んでいたはずだが... 男はようやく我に返った。意味もわからず歌わされているような Dylan の "Like a rolling stone" のカバーが聞こえてきた。かつて所有していた建物の前で男は寝ていたのだ。すると目の前を猿が通り過ぎた。

 まだ夢の中か... と思いつつ立ち上がると朝日が目に飛び込んできた。気づくとまた山の中だ。当時はまったく相手にしなかったが、建物がある場所はかつて山だったと聞いたこと思い出した。テントを片付け、出発しようとした途端に気を失った。目覚めるとどうやらベッドの上である。カーテンを開けると再び朝日が飛び込んできた。ベランダの縁には夢で見た鳥。

 「籠に入っているのは俺か...」男はザックを押入れの奥から引っ張り出し荷物を詰め込み「しばらく山に行きます」とのメモをスマホの下に残し、数十年ぶりに山へ向かった。久しぶりの登山靴の重みを噛みしめつつ、軽やかな心持ちで駅へと向かった。どの山に行くかはすでに決めていた。鮮明に蘇る山頂からの眺望。遠くに見える富士山はいつの間にか冠雪していた。