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『花の宇宙誌』 岩田慶治 (青土社)

突然、バタバタと鳥が羽ばたき、獣の眼がキラッと光り、オレンジ色のランの花がゆれ、ソロリソロリと虫がはいまわるのであった。人間の眼と生きものの眼が出会う。その瞬間に、人間的な時間にかかわらない相互の凝視のうちに、われわれは生きものたちとの共同世界に目ざめる。人間をピラミッドの頂点にすえた、あるいは人間の欲望の座標にしたがってつくりあげた自然の秩序ではなくて、鳥・獣・草・木・虫・魚たちと同時に共存する世界、その同じ世界に、いま、自分が生きていることに気づく。われわれは、そして、われわれの祖先たちは、しばしばこういう経験をしたに相違ないのである。『花の宇宙誌』 岩田慶治 (青土社)

  「こころ」という、内も外もない不可思議千万の世界に足を踏み入れた人だけに、放つことが許された言葉である。山に入り歩き始めると「私」と「無私」が入れ代わりはじめる。30分も過ぎれば、歩いているのはもう「私」ではないが、人とすれ違うと「私」が光を超える速さで顔を出す。

 鉱物でも、植物でも、動物でも、ましては、人間でもない「存在」。ただ「在る」ことすらも意識に上らない永遠の真っ只中。「ああ、岩田氏は『以心伝心』の話をしているのか」と今頃気づいたものの二者も三者も、また、一者さえもいない。祖先の話ではなく「ぶっ続き」の話しをしているのだ。

2020/08/28