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光景

 「うまくいく時もあれば、いかない時もある」「はい。うまくいった時は印象に残るのでしがみついてしまう傾向がある、と仰りたいのですね」「そう結論を急ぐこともなかろう」「早合点するな、と (笑)」「真剣に漫才をやってどうなる (笑)」「失礼しました」「一等が出た宝くじの売り場はどれだけのハズレを出しているのじゃろう」「そりゃもう数えきれぬほど」

 「さて、本題じゃ。読書はするかね」「はい。貪るように読む時もあれば、まったく受け付けない時もあります」「何を探しているのじゃ」「なんだか本当のことを知っている人間はどこにもいないということを確かめているような気がする時があります」「『自分』が浮き彫りにされるのじゃな」「十人十色、百人百様。百花繚乱とも言えないことはないですが」

 「花にもいろいろあるからのう」「小石の山の上に攀じ登って小石を積む人もいれば、ひとりで佇んでいるような人もいます」「前者にしても、元は後者じゃな」「はい。三者三様ゆえ、自然にしていれば、誰もが後者になるのでは、などと思ったりします」「ひとくくりできぬ、ひとりひとり」「人それぞれであることは『摂理』のようなものではないでしょうか」

 「それも思い込みかもしれんな。ほれ、海面を無数の光が踊っている」「見上げれば空には様々な雲が浮かんでは消え」「見渡す限りの生命の営み」「自然という本には何も書いてありませんね」「時に解釈せず、無心に眺めることも乙なもんじゃな」「波打ち際で子供が何か書いては波に消されるのを夢中で楽しんでいます」「光景とは『日のひかり』でもある」