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心象

 「何をどう見ようと『人間』の視点であることに変わりはない、ですよね」「ひとりで山をほっつき歩くしかないな」「『人間』の視点がなくなるとでもいうのでしょうか」「いや、視点などというものは必要ない」「どういう状態なのでしょう。また、一匹になるとでも?」「何度も言うように、こう話していれば『自分』が明らかになるように、山をほっつき歩けば『人間』が明らかになるってだけの話じゃ」

 「では百名山はもう登頂済みなんでしょうね」「いや、全然。そんな気もない。歩きたくない時はどこへも行かん」「ひとそれぞれですね」「そう。ひとそれぞれだからこそ、ではないかね。他の生物は自由にやっちょる」「・・・様に見える、ですか」「いや、山を歩いているとそんな気分になるから、そうじゃなかろうかと (笑)。いや、そんなことも考えんな。ただ気づいたら山歩きなんぞをしているって話じゃ」

 「『人間』の視点の話から外れていますね」「外れようがないし、外しようもないだろ。そもそも『自分』の視点ではないかね。それが必要であればどこからか出て来るし、必要なければどこかへ引っ込む」「我あり我なし自ずから、ですか」「わざわざ言挙げする必要もないことだが」「シゼンとジネンとは違いますか」「違うと思えば違うし、同じなら同じ。空気や水を網でとらえらるようなもんじゃないかのう」

 「荘子の混沌様の話の様にですか」「あ、あの白黒つけると途端に妙味がなくなるって話か」「え、そうでしたっけ」「今の解釈じゃ (笑)。解釈は『定義』ではないからのう」「『定義』ですか。それも不変ではないですよね」「常識じゃ (笑)」「いや、そこにつっこみはいれません (笑)」「お、調子が出てきたようじゃのう」「また無駄話をしていますね」「だから無駄なものは.... いや、その手は食うまいぞ」