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波紋

あの世から戻った者は
ひとりもいない

この世のことを知る者も
ひとりもいない

忘れているだけかもしれない
目が開いていないだけかもしれない

想像することしかできない死
生はどうだろう——生きているか?

あるものが無常を語れば
あるものは愛を語る

共に一切の言葉をもってしても
語り得ぬもの——語り得ぬからこそ!

鏡の様に静まり返った水面に落ちた
一滴が正夢を見ている

「死の相の下で」小海永二

死の相の下で
ものを見る時
本質的なもののほかは
すべて消え去り
何が価値あるものかが
しみじみとわかってくる

死の相の下で
人を見る時
人格の底にあるもののみが
浮かび上がって
ああこの人もかと
時にあわれをさそうことがある

ものの空しさと
人の心の愚かさと

死の相の下にある時
風景は遠くまで
カランと見通しがよく
さまざまなものの
実相が見えてくる