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老夫婦が営む青森の喫茶店

仕事で地方へ行くというのは、一種の格好良さがあり、ロマンがあります。
地方へ来たら、なるべくチェーン店は避けたいところ。宿泊先の近くにあった小さな喫茶店に入ることにしました。
その喫茶店は老夫婦が営んでいて、店内には私一人。カウンターに座りコーヒーを注文して、ノートを広げました。マスターは私の作業の邪魔にならないよう、小声でコーヒーを置いてくれました。寒い道中で冷えきっていた私の身体に温かいコーヒーが染み入りました。ラジオの音が流れる店内。

「向かいの佐藤さんネットで重曹を注文したら、たくさん来ちゃったみたいで余ってるみたいよ」と奥さん。
「重曹って汚れとか落とすやつだっけ?」
「たしかそんなだった気がする。ネットで調べてみるね。」と、たわいもない会話とラジオの音が響き渡る店内。

すると今度は
「コーヒー挽き終わりました。」
「ありがとうございます。」
「明日の準備、完了しました。」
「ありがとうございます。」

丁寧な口調でハツラツとした元気の良い会話がなされていきます。最初は誰に話しかけているんだろうと違和感を覚えましたが、この老夫婦は仕事とプライベートのバランスを、敬語とタメ口を使い分けることによって、最適解を見つけたんだと納得しました。

もしかしたら若い頃には、タメ口のまま仕事をしていて、メリハリがなくなり、仕事中なのについついお互い甘えてしまった苦い経験があったり、仕事中は敬語で会話しようと決めたら決めたで、淡白な会話になってしまい、せっかく夫婦で仕事をしているのに、なんだか素っ気ない生活になってしまったり、そんな日々を送る中で、いつからか雑談はタメ口で、仕事に関しては敬語にしよう。相手が仕事をしてくれたら、ありがとうございます、としっかりお礼を言うようにしよう。と決めたのだろうと思うと、夫婦生活と仕事、どちらにも真摯に向き合う姿勢を妄想し、尊く感じました。

お会計を済ませると「寒いから気をつけてね」と奥さん。
タメ口で声をかけてくれたことに感謝しながら、温かい気持ちでお店を出ました。また来ます。

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