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サポートロボットくん(ショートショート)

「こんにちは、ジョージ」
「こんにちは、アミさん。お、マルコ元気か?」ジョージはアミさんに連れられたダックスフントのマルコを撫でた。マルコはいつものように元気に吠え返した。
ジョージはマルコを見るたびに、小さい頃に飼っていたダックスフントのサクラを思い出す。
サクラは、甘えん坊でジョージが学校から帰って来るとすぐに玄関までやってきて飛び跳ねた。それがとても愛らしかった。ジョージはサクラのために、栄養のある食事を用意したり、毎朝一緒に散歩したり、可愛い洋服や首輪を買ってあげたりした。彼の家は裕福だったため、ジョージはサクラのために必要なものを買い与えることができた。無償の愛情を注ぐこと、それは彼にとって大きな幸せだった。
アミさんとマルコに手を振って別れ、電気屋へと向かう。ジョージは両親の財産を投資に回すことで利益を上げていたのだが、管理が大変になってきた。一部の運用を誰かに任せたいと思っていたところ、ロボットが代わりに運用してくれるというニュースを聞いて、どんなものか見に行くところだった。

「こちらがサポートロボットくんになります」
「実際見るとかなり大きいですね」
「はい、当社のサポートロボットくんは、メール返信から投資の運用などインターネット上の対応はもちろんのこと、お茶を淹れたり、食器を洗ったり、家具の組み立てを手伝ったり、フィジカルなサポートも出来るよう一般的な成人男性と同じ骨格で作られています」
「なるほど、それでいくらぐらいなんですか」
「どのサービスが必要かによって金額が変動しますので、お求めのサービスをお教えください」
ひとまず、投資の運用機能を付けて購入した。すると、サポートロボットくんはすぐに動き出し、早速運用を始めた。定期的に結果を報告してくれるので、ジョージはゆっくりとした時間を過ごすことができた。自分で銘柄を選ぶ必要もないし、ずっと見張っておく必要もない、利益もどんどん出ていて、快適な日々を過ごしていた。ある日コーヒーを淹れていると、ふと思い立ち、電気屋へと向かった。
「いらっしゃいませ」
「すみません、機能をいくつか追加したいんですけど」
「かしこまりました。こちらからお選びください」
ジョージは家事など雑務の機能を追加していった。
「ありがとうございます。今後、機能を追加したい場合は、店舗まで来なくても、サポートロボットくんに直接話しかけていただければ、追加できるように設定しておきました」
家に着くと、サポートロボットくんに指示を出す。
「コーヒーを淹れて」
「了解しました」
「食器を洗っておいて」
「了解しました」
「夕ご飯は、肉じゃがを頼む」
「了解しました」
サポートロボットくんは全てを完璧にこなす、ジョージは自分で動く必要の無いこの生活に満足していた。
「明日は9時に起こしてくれ」
「了解しました。ジョージさんの適切な睡眠時間は7.5時間です。あと15分以内に寝室に入ることを推奨します」
「そんなことまで、計算できるのか。ありがとう」
急いで歯を磨き寝室へと入った。

「おはようございます。9時になりました」
「あ、ありがとう」と言ってジョージは起きた。いつもより、スッと起きれたのはサポートロボットくんの忠告のおかげのようだった。
サポートロボットくんを信用し始めた彼は、指示ではなく相談をするようになっていた。
「ちなみに、今日の朝ごはんは何を食べた方がいいかな?」
「今日のスケジュールを考慮すると、500カロリー程度の食事が良いかと思います」
「ありがとう、500カロリーだとどういう食事になる?というか、冷蔵庫に入っているもので何か作れる?」
「了解しました」
そう言って、サポートロボットくんは動き出し、ジョージの朝ごはんを作り始めた。
「こちらが502カロリーの食事になります」
「おお、ありがとう」

それから半年が経過した。
「おはようございます。9時です」
「ありがとう」
「では、まずはこちらに着替えてください。日光を浴びるために散歩に行きましょう」
「了解」
ジョージは用意された服に着替えて外に出た。帰ってくると健康バランスの考慮されたお昼ご飯が、ジョージの前に出される。
「このあとは、洋服を買いに行きましょう」
「了解」
洋服屋では、サポートロボットくんが店員と話し、ジョージに似合う服を見つけた。帰ってくるとサポートロボットくんが選んだ赤い服をジョージに着せた。
「とてもお似合いだと思いますよ」とサポートロボットくんの声色はいつもより明るかった。
「ありがとう」
「あ、そろそろトイレの時間ですね。こちらへ」
「了解」
ジョージはサポートロボットくんに資産だけでなく、行動も委ねるようになっていた。サポートロボットくんに質問して行動を決めてもらっているうちに、自分の頭で考える必要はなくなり、全てを決めてもらう方が楽であった。今日何をするべきか、何を食べるべきか、どこに行くべきか、言われた通りに行動していれば、誤った判断をすることはなく、資産は増え続け健康スコアも上がり、順調に日々が過ぎていく。
「今日も1日お疲れ様でした。10分以内に寝室に入ってください」
「了解」
「おやすみなさい」
「おやすみ」

次の日もジョージはサポートロボットくんに起こされて、用意された服を着て散歩に出る。
前からマルコを連れたアミさんがやってきた。
「あら、サポートロボットくん、おはよう」
「アミさん、おはようございます」とサポートロボットくんが返事をする。
「ジョージもおはよう」
「おはようございます」と笑顔で答えるジョージは元気に吠えるマルコのように映った。
サポートロボットくんは、アミさんとマルコに手を振って別れた。
しばらく歩いた後、アミさんは心配そうに振り返った。見えない首輪をはめられたジョージは、連れられるまま道の向こうへと消えていった。

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