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車窓

影は物静かだった。

計画停電は、電車の明かりを消した。

向かい合って座る二人は、一つしか影ができないことに気がついた。

月明かりですら、入道雲に陰影をつける。


私たちの影は、お互いを照らすことができない。日の光を、浴びるのはいつも一人で、車窓に映る遠い山並みの氷河ですら、太陽のもとでは、月と同じ光を出すのに。


太陽と、月はお互いを知らない。その光を知っている。私たちの影は、一人だけ光を浴びて、闇に溶けてしまう。


闇の中で私たちは、影として混ざり合う。言葉が届かない場所で。


ヒカリアレと、誰かが言った。
私たちは、もうお互いを知ることができなくなった。

規則的な振動がつたえるように、光線は闇を過去に置き去りにする。
光のはやさより、幾分遅く、電車はまえへと進み続ける。

やがて夜になり、車窓には街明かりが、灯る。

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