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オーストラリアの森林火災について

私がタスマニアにワーキングホリデーに行っていた、2016年2月にも、オーストラリアのタスマニア島で火災が起きていました。島の中心部の保護区の森を焼くものであり、氷河期以降大規模な火災に見舞われたことのなかった森林が、焼失し、またそれは地球温暖化にも原因はあるのではないかと地域誌は報じていました。 (Mercury : The Voice of Tasmania, 18, January, 2016, pp. 18-19 )オーストラリアは、火災が多いというイメージがあるかもしれませんが、氷河期から燃えずに生きてきた森もあったのです。

大規模な森林が火災にあっている、野生動物が大量に死んでしまい、また現在も温暖化がその主たる原因であるということが、2020年の今、報道で連日なされています。オーストラリアの原生林は、ウィルダネスと呼ばれることが多く、原生林といういわゆる無垢な自然だと考えられていました。In to the wildの‐wild‐という言葉が原生の自然という意味であり、日本で言う里山、二次林と違い、人との暮らしからかけ離れた自然だというのです。日本で原生林というと富士山の樹海や、屋久島、白神山地などが、イメージとしてでてくるのではないでしょうか。

そのような自然の中で暮らしていた人たちは、アボリジニ、自然の恵みを享受して暮らしていたのではないか、というイメージが強いでしょう。それは、アメリカ大陸のインデアンや、エスキモーなどのイメージも共通していると思います。しかし、インディアンや、アボリジニの人たちも、自然を利用して、暮らしを築いていました。その大きな自然環境への介入は、なんと火を入れることだったのです。実は、その火入れが大規模な火災を防いでいたのではないかということが、言われています。 

オーストラリア人は山火事の被害とその防止に大きな人力と財をつぎ込んでいるが、それでも防ぐことができない。それはオーストラリアの森をヨーロッパ的な思想と手法で守ろうとしているからだ。ここは発想を転換して、毎年森に火を放つというアボリジニの伝統的な手法を見習おうではないか。私たちが守ろうとしているのは、一七八八年(オーストラリアの植民が始まった年)までにアボリジニがつくりだした環境なのか、それとも人類がこの大陸に渡来する以前の植生なのかを考える必要があるという大胆な提言を行ったのである。
小山修三「アボリジニの作った景観――アーネムランドのブッシュファイア」川田順造・大貫良夫編、『生態の地域誌』、山川出版社2000、p.143。

乾燥した大地に、燃えやすい草が短い雨の時期に一気に繁茂することがあり、それらがたまることによって、大きな火事になるとのこと。ススキや草原を維持するために、日本でも定期的に野焼きをするところがありますが、それと同じように植物の遷移を固定化する働きがあったのだと思います。そのため、植物を定期的に燃やすことによって、大きな火事を防いでおり、その営みが絶たれてしまうことにも、大規模な火事の遠因があったのかもしれません。

そして、アボリジニは、制限を設けて、自然環境の劣化を防ぐだけではなく、むしろ人間の介入によって周囲の環境の多様性、生産性を高い状態に維持することができていたのです。火を入れるといっても、森林を燃やし尽くし、生態系の遷移をゼロに戻す手法だけではありません。草をなめるように燃えるCool Fireと、森を焼き払うHot Fireの二種類を使い分わけており、シドニーの乾燥地帯では、春にCool Fireを、初夏にHot Fireを用いて、固い種やさやに包まれた種子を開き、発芽を促していたというのです。火入れにおいて五つの規定を見出していました。

1、農地の大半は、順番にモザイク状に焼かれることにより、植物や動物の密度を調整するのと同時に、生存するための避難場所が作り出される。
2、その年いつ火がつけられるかは、燃やすべき土地、またその植生の状態によって決定される。
3、季節の気象条件(乾季、雨季など)もそのタイミングを決めることに影響する。
4、隣接した部族はすべての火入れの活動について通達される。
5、特定の植物の育つ季節は、極力避けられる。
(Pascoe, Bruce, Dark Emu Black Seeds: Agriculture or Accident? , Magabara Books, 2014 p.118-119.)

アボリジニはそれぞれのテリトリーを持っていましたが、住居の隔離や、その文化が絶たれてしまうことによってその営みが失われたのち、大規模な火災は頻発するような環境になってしまったということです。人間の豊かさを暮らしの中心に据えつつも、火事を防ぎ、生態系を豊かにする、何万年も続く文化を維持する人と自然との関わりのあり方もあったのです。アボリジニが入植した当初には、この地域の生物の多様性は、損なわれたかもしれませんが、人間の存在自体が、地球環境を必ずしも破壊するわけではないのです。

日本では、このように人間が介入し続けなければならない自然との関わりは、植林地と人間の関係といえるでしょう。そして、それは、火事ではなく、土砂崩れや川に流れた木々が水をせき止めて洪水となるような形で、人々の暮らしに影響を及ぼしています。

火事や洪水など、気候変動の影響として私たちの暮らしにかかわる出来事ですが、それは私たちの暮らし方が、原因の一つとして影響することもあり、報道で短い時間だけで伝えられるような、単純な構図だけではとらえることのできないことなのです。

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