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ワラビーナイト

日々の仕事として、植樹をしていた。
植樹が終わった後、ステイ先の人が語ってくれた。
「今日の私達の仕事は、この土地にとって、いいことだったわね。もし、私達が去ってしまった後にも、この土地は、木や、豊かな土が残る。」
しかし、翌日、植えた木が数本食べられてしまっていた。

ワラビーだ。
翌日から、ワラビー避けのフェンスを直す作業になるが、一日で終わらない。苦労して植え、水をあげた木が、気がかりで仕方がない。とある先輩が、畑に寝泊まりして害獣から守っていたという話を聞いていたので、泊まってもいいか訊ねてみた。
「あなたがやりたいというなら、構わないよ」
と許可をもらったので、その日は見張りをすることに。

こちらがすごく興味を持っていることが伝わったのか、寝る前に、ワラビーを見にゆく、パトロールのドライブに行った。ワラビー、パディメロン。ポッサム。いるわいるわ。簡単に見つけることができ、何匹かは、牧場へと向かって行く。帰ってすぐさまテントへゆき、見張りをする。

白夜に近づいており、夜6時でもまだまだ明るい。真夏日があれば、霜が降りることもあり、なかなかタフな環境。


日本と季節が真逆で、こちらは春なかばだ。しかし春と言っても、タスマニアは、日本でいう北海道の気温だ。寝るときは大丈夫だったが、結局寒くなり起きた。テントの中で耳を澄ましていると、時おりワラビーらしき足音がするが、多くはなさそうだ。

あまりにも寒いので、結局、諦めて小屋に戻ろうと決意する。外にでた瞬間、あちこちから足音が聞こえた。静かに草を食べていたようで、気づかなかった。人がいることに気づき、驚いて駆け出す音が聞こえる。フェンスにぶつかる音が聞こえて、よっぽど慌てていることが伝わってきた。

その後、何日もかけて、1キロあるフェンスを、丁寧に直した。日本でも、野性動物と、人との関係は、時として対立するときがある。植樹や、畑、植生の保護、ロードキルなどで、どうしても邪魔物になってしまうときがある。こちらでは、ワラビーがそれらの問題を抱えていた。5キロ程犬と散歩して、ロードキルにあったワラビーの死体を10頭以上目にしたこともあった。

一方で、ワラビーの頭数制限のため、食べようという流れもある。牛肉が、さまざまな問題を抱える中で、かわりにワラビーの肉を使っている商品もあり、面白い。オーストラリアのミートパイが美味しいと友人から聞いていたが、並べてワラビーパイも置いているパン屋さんもある。ワラビーパイを選ぶと、「いいチョイスよ!」と、店員さんがすかさず声をかけてくれた。

もともとこの辺り一帯がりんご農園で、その後、牧草地になった土地。森にかえそうと思っても、タスマニアの原生の木々は育つのが遅く、どうしても外来の木を植樹することになってしまうそうだ。家によっては、白樺がある。外来種として問題になっているのはブラックベリー。原生の植物でやっかいなのは、シダ類や、とげのある雑草。牧草地を草原に戻そうとする。このバランスもまた難しい。

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