カスピカンヨーグルト

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ！

私が小学生の頃、おませな友達のEちゃんが、

「今はカスピカンヨーグルトがブームである」

と教えてくれた。

もちろんこれは「カスピ海ヨーグルト」の聞き間違いである。
が、幼き私は魅力的な「カスピカン」という単語に瞳を輝かせていた。カスピカン、意味はよくわからないけれどパワーがあって、知っているとステータスになるような、格好良い言葉。
当時はインターネットが普及していなかったから調べることもできず…というのは言い訳で、確か家族に一度訊いた気はするけれど、何ならその時に「カスピか“い”」だよ、と教えてもらった気もするけれど。本当にすぐ忘れてしまった。

今では文章を売るお仕事をしたりしているので、判らないことがあれば調べる。
が、如何せん一回検索しただけでは中々覚えていられない頭である。
今でもカスピカンのようなものばかりが頭の中に残って、カスピ海の方を何度も検索している。何処にある海だったっけ？他の海とどう違うんだっけ？調べものをきちんとする癖だけは、たぶん早めにつけておいた方がいいな、と思う。
Eちゃんは私より早く大人になって、疎遠になって十年以上後に一度、勇気を出してメールを送ったけれど不着で返って来た。彼女は今、なにを食べているんだろう。

カスピ海ヨーグルトについて、特に思い出に残っているのは紫のブドウ味、橙のオレンジ味がついているものであった…が、心苦しいことにおそらく他社さんの商品である。量が多めで、透明なプラスチック容器に入っていて。ちょっとおしゃれなスーパーにあるようなものです。「明治さんのカスピ海ヨーグルトを食しました！」なことにしようかと邪な考えが頭をよぎったが、何だか問屋が卸さないような気がして、自白。
代わりにちゃんと(？)検索して、明治さんのカスピ海ヨーグルトを探すことにした、が、見つからず。重ねて心苦しいが、行きつけのスーパーには他社様のものしか鎮座していなかったのだ。どうしよう…。乳製品売場を三往復以上して、心の中で頭を抱えた。ここまで長くヨーグルト売場に滞在したのは人生で初めてだ。
上手い事「カスピ」的な名称のものを買って、作家的に見栄を張りたい…などなど、苦しい事極まりない考えが頭をよぎる。そして単純に、ヨーグルト売場の前にいるので体が冷えてきた。
うんうん唸って、ここで毎日品出しをしているスーパー店員さんを尊敬したりして、結果として。

「明治ヨーグルトドルチェ　とろりーな　ティラミス風味／レアチーズ風味」
を購入。

ドルチェというだけあって、濃厚なスイーツ風味の飲むヨーグルト、180g。手のひらサイズに収まる容器が庇護欲をそそる。
正直カスピ海の“か”にぎりぎり引っかけてCa入りのヨーグルト製品を買おうか迷ったのだが、単純にスイーツ風味に負けた。おいしそう…。ヘッダーはいわば購入しましたよ、の証拠写真です。
実はこの文章、一文字目を書き始める前からティラミス味を飲み始めていたので、「Eちゃんはどんなものを食べているんだろう…」などとセンチメンタルなくだりも、とろりーなの甘さのおかげで、さめざめとしないで書けた。ありがとうございます。思い出の中じゃなくて、カフェにいるみたいにおいしい。ごくごく。
蓋を半開けして付属のストローでお洒落に飲めたり、全開けしてがぶ飲みすることもできる。…ので、この文章を書き終わったら今現在無傷のレアチーズ味の方をがぶ飲みする予定です。
あ、ヘッダーの写真、実は買ったスーパーマーケットの事情で、どちらにも値引きシールがついていました。それを爪で剥がしたために少し傷がついているだけで、故意ではないことを申し添えておきます。

食卓じゃなく仕事卓、かもしれないけど、あたら
人間関係や良い文章を作ろうとか、無理にどうにかこうにかしなくても、美味しい飲み物に出会えて美味しかった。
そんな単純な、搾りたてのエピソードでした。
ありがとう、幻のカスピカンヨーグルト。

【終】