【✏】えんぴつ堂 #334~#361
使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!
【334】
【✏】守られるなんてまっぴら御免と思ってたけど、あなたの背中で視界が覆われて初めて気づいた。この人は人生と感情の全てを賭けて、決して私を傷つけまいとしてくれている…そんなに、こんなに不器用なのに。だから私、そのがら空きで無防備な背中を守るように、何も言わずに抱きついたんだ。
【335】
【✏】「当てないでね、絶対当てないでねー!」ドッジ前、女子集団の協定の声。話に入れてない女子の方が印象的だった。集団の一人にボールを当てるとキャハハと笑って外野へ消え、直後、敵討ちとばかりにバスケ部員が放った速球を飛び退ってキャッチした。歓声。チャイムが鳴るまでは強者だ、自分は。
【336】
【✏】「このボタンで新社会人生活が上手く行くの…?」「ええ。まず返事機能」『邪推乙www』「…………」「目覚まし機能」『邪推乙www邪推乙www邪推オ』「宴会機能」『ジャッジャジャッジャッwww邪推乙ッwww』「あんたネットでよくこういう事書いてたんでしょ?」「邪推とは書いてない!!」
【337】
【✏】『オンラインのディベートも良いものでしたね、皆さん』『はい、教授!』『議論は尽きませんが、一旦〆ましょう』『有難うございます!』『さて、先程警備から連絡がありました。無断侵入と』『うぐ…!』『せ、先輩!?』『OBを使ってまで私のデータを狙ったのは誰か。次回内容は犯人探しです』
【338】
【✏】ソーシャルネットが効果なしならメールです!数人のアドレスを選んでまた数人、また数人とゆるく拡散!自分が選ばれた特別感、何なら縁起良さそうな文章と画像、根拠は無くとも皆選ばれれば嬉しいので大丈夫です!まさに小さくも強固な鎖、チェー…どうしました上司殿、顔を背けて。え、却下…?
【339】
【✏】なぜ仮面のような化粧をするんだろう、肌荒れは嫌と言ってたのに。何故そんな衣装でスポットの下に立つのだろう、安くて眩しいのは苦手と言ってたのに。ナゼ剥き出しの脇腹に、汗の雫を浮かべるのだろう。音に揺れる笑顔。招待券、チケットバック。この地下空間はずっと、眠れる君の夢の種子だ。
【340】
【✏】「“みんなにささる”ものって何かな?」「ナイフ」そう答えた1対2の現代文個別塾、先生の向こうからアイツがボソっと「たいよー」って言った。「~君は後で丸つけするから」先生の困り声。絡まなかったアイツの名前は忘れたけど、今も心の中で「太陽」って呼んでる。たまに蘇る、深く小さい記憶。
【341】
【✏】ティーラウンジって不思議。ロビーからは穏やか空間に見えるのに、席に座ると外の人達の慌ただしさにソワソワしちゃう。冷えた器のチョコレートパフェが運ばれてきて、ワンピースの背筋が伸びる。甘くて高くて匂い立つ。メニュー写真より数段まばゆいアイスクリームを、スプーンで舌に載せた。
【342】
【✏】「次のバイトは?」「プライベートパーティのサクラ!」「…闇深そうだな」「そうかな、友達と喧嘩したっていうから割高で」「友達の振りするのか?」「もうなったよ。色々ID交換した」「……」「寂しくしてるとバレるしね」「そか。んじゃ、闇を照らしてサクラ咲かせて来い!」「おうともよ!」
【343】
【✏】波打ち際の二人。「親父がさ、人生を嫌いで、この剣にも虚空って名付けた。でも俺は、親父が虚空をくれて、踊る程喜んで…技は喜空って名前にした」砂浜に書かれる字(喜空)。「その字だったのね。き、って色々あるから」砂浜に字(嬉、輝、希)。「良いな!奥義は喜嬉輝希空にしよっかな」「ふふ」
【344】
【✏】記憶師は人の記憶を弄れる代わり、自身や同業、元同業や志望者へのオペは厳禁。「ぼくは嫌だな、記憶を替えるのは…」その恐怖も抹消可能。もしやもう処置済で、君の臆病さは他人の記憶由来かも。「!?」ごめん、冗談だ。君に術歴はないさ。こういう冗談が嫌で手術を受ける人も、何人もいる…。
【345】
【✏】ソファーは一人暮らしの小舟だ、気持ちまでも大きくしてくれる。
通知が鳴った!小心者の僕はもふりと座り船長になる。交際相手からの一言も長編ロマンス、バイトのシフトは極秘任務、社交辞令も固い盟約。人生の不安なんて重い錨は上げてしまえ。
膝を抱えて書く返信文、浮世の僕の海を漂う…。
【346】
【✏】屋上への踊り場は夏行き。私達は三人集まり、冷たい地べた(床べた?)で日焼け止めを塗る。本当はつけ慣れてないけど、二人に合わせて知ってる風に、ドレッシングみたく容器を振る。カタカチカタ。「あいつ絶対私の事嫌いだわ」、肌を滑ってく噂話。大人になる途中の踊り場、私達は座り込んでる。
【347】
【✏】古株なんて言や若干格好良いけど、抜けた奴の背中大勢見てっから…や、アバターの背中だからリアルは知らんけど。…知らんけど、見える…心象風景?
だから、リーダーや副リーがインしないと不安になる…あーゴメン、新入りにこんなん話して。星空、綺麗だな。…心象風景だよ、私の。感じろ。
【348】
【✏】「えー、うさぱんちゃんよそるのちょー綺麗!」「ありがと♪」長耳のクリームぱんを配膳しつつ、トングを鳴らして私は笑う。だけど…今日のうさぱんちゃんはね、私が廊下でばんじゅうを落として、一人で必死に拾い戻したの。息が苦しい。トングでよそる。レーズンの瞳。誰も、見てなかったよね?
【349】
【✏】「十把一絡げにすんなよって思っててさ、最初は。でもさ、俺の残りの九把?の中にも色々あんだなとか」…居酒屋。「その九把の中に、隠れんてのが心地よくなったり」…アルコール。「最高だったのは、自分が十把掴んだ時。今までやられた分、工場作業みたくガッと」…冷めきった、一羽の唐揚げ。
【350】
【✏】「強くなりたい」と言った人達が手放したか弱さを、わたしはこの家で預かっている。みんな可愛い。色が可愛い。音が可愛い。匂いが可愛い。か弱いってこんなに素敵なものなのに、どうして置いていかれるのだろう。か弱さ達は、雨の夜に寂しがって泣く。この子達と過ごして、わたしは強くなる。
【351】
【✏】どんな用でも、用がなくても、もっともっと馬鹿みたいに、声に出して話せばよかった。目には飽きるほどモノが映り、耳には溢れるほど音があったのに。
きみが喜ぶ話題を選ぶうち、僕はおぼれて口をつぐんだ。消せないスマホの明かり、ひとつ減った連絡先。ベッド、重力、呼吸する胸。寝返り。
【352】
【✏】『あなたの“現実逃避力”、衰えてませんか!?こちらの“現逃茶”を飲めば、現実細胞に逃避成分がアプローチ!あの頃みたいにキレッキレな想像を』「お待た。またその広告?」「や、超怪しいけど地味に気になってさ…」「後輩が飲んだよ、思ってたより美味かったって」「……ますます気になる……」
【353】
【✏】「ほてるさん、ありがとう!りょかんさん、ありがとう!」チェックアウトギリギリにシングルルームを飛び出たあたしの耳に、瑞々しい声が響いた。ここは旅館じゃないよと親御さん方に手を繋がれて、去っていく子供……。我に返って、手早くルームキーを回しながら言ってみた。「……ありがと」
【354】
【✏】職務経歴書を何枚もぐしゃぐしゃに丸めた、感情に任せて破いた、一枚だけ泣きながら舐めた…。社内で書類を作る時、舌に時々あの味が広がる。何気なくフロアで働く皆も、この味を知っているのだろうか。怠い目元を軽く押さえた。あんなにもしがみついた所属先で今、外の空気を吸いたくなる。
【355】
【✏】泣いた後の時間が好きだ。好きと言えるほど余裕があったことはないけれど、嫌いよりはよっぽど好きだ。無と白と熱に分解されて、しっとりとまとわりつく感情。波打ちながら引いていく涙声。達成感と未達成感の混沌。人の道を極めたような、人の道から外れてしまったような心地。泣き明けの時間。
【356】
【✏】希望の光はシャボン玉だ。誰にも割られないようこの手で掴めば、僕の手の中で弾けてしまう。それが因果で摂理で、でも、だから──……輝きが割れたら暗闇が広がることを、僕達は憶えていよう。歯と腹に力を込めて、黒を好むこの世界へまた一歩、地鳴りのような音を立てて、踏み込んでいくんだ。
【357】
【✏】大好きなゲームを閉じた瞬間の、容赦のないリアルが苦手だ。愛おしい視界から、鬱陶しい世界へ。「じゃ、その時私が引っ張ればいいんじゃない?こっちに」「そう?…かな」「で、私が現実に戻るの嫌になったら、今度はきみが引っ張って。引っ張り合いゲーム」「何だそれ」…楽しそうじゃないか。
【358】
【✏】「“攻め手に欠けてるから頑張れ”って」『占い?』「うん、けほ」『…昨日と似てない?』「昨日は“攻め手に欠けてるから張りきれ”」『…やめた方が良いよそのアプリ』「うー、ごほっ…」『そんなだから変に根詰めて倒れるの。ノート取っとくから休んでな』「ホント!?ありがと!攻めて治すっ!」
【359】
【✏】しどけなく寝乱れるきみ。吐息は深くて、ひとつ、ふたつ、目元のクマの色だけが残酷だった。タオルケットを肩まで引き上げてやりながら、「そんなになるまで」と小さく呟く。
夜が明けて、朝陽が社会を連れてくる。きみはクマに化粧ブラシを上塗って、大丈夫だよありがとうって、また笑うんだ。
【360】
【✏】泣く少女の攻撃が、的確に体を蝕む。「た、体得したんです、泣いても軸がブレないように、怖くても火力減らないよ、に、マナをぴぇっ、来ないでえっ、だからぁ、ひぃぃもうやだあっ…!」脚を震わせ、空中からぽたりと涙が垂れ、緻密な高速拘束魔法に縛られる。思考が根こそぎ刈り取られる──。
【361】
【✏】「こちらのクーポン、期間が明日からで…」申し訳なく伝えると、券とグミと目薬を並べた学生服のお客様はフリーズした。「…スイマセン、戻し」「大丈夫です!こちらでやりますので、明日以降」「…明日すぐ、来てもいいんですか?」笑顔が力になる瞬間があるのなら、きっと今だ。「もちろん!」
お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )