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台本*13「被忘却騎士と空(から)世界のあるじ」(1~2人用)

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!

暗黒の空世界(からせかい)で目覚めた、「騎士」。
ただひとりの「あるじ」より、この世界の静かな残酷を聞いた「騎士」は…。

【キャラクター】
(演者の性別、年齢不問)

・騎士
ソーシャルゲーム「黄昏の剣(たそがれのつるぎ)」の登場キャラクター。
「カナリア大陸」を守る「月光騎士団」所属騎士として、
「混沌の軍勢」と戦う主人公。
勇敢で誠実。

・あるじ
ゲームキャラクターの行き着く場所
「空世界(からせかい)」のただひとりの主。
穏やかで諦観したような言動。

******************
(以下本文)

【騎士(ナレーション)】
ある日、私の旅路は止まった。
大切な剣(つるぎ)だけを抱(いだ)き、
闇の中に倒れていた。

【騎士】
うう……。

【あるじ】
おや。
目を覚ましたのですか?

【騎士】
何だ、ここはどこだ!?
……剣(つるぎ)しかない、誰もそばにいない。
何が起こっているんだ。

【あるじ】
ここは空虚。虚無。虚空。
空世界(からせかい)です。

【騎士】
から、せかい?
貴様、何者だ!

【あるじ】
私は、空世界(からせかい)のあるじ。
ここがどのような場所かは、
あなたの頬(ほほ)を伝うものが、教えています。

【騎士】
!?
(頬に手をやると、涙が伝っている)
涙……?
何故私は、泣いて。

【あるじ】
残念ながら。
あなたが冒険していた「カナリア大陸」は、もう存在していません。
感じるでしょう?

【騎士】
カナリア大陸が……!?
だからこんな感情が……。
……う、嘘だ!
あの黄金の海も、憩いの森も、
漁村も農村も、動物も精霊も!
一体誰が!

【あるじ】
その記憶もあなたの中にあります。
“サービス終了”という言葉をご存知ですか?

【騎士】
サービス終了……サ終(しゅう)、か!?

【あるじ】
ええ、あなたが聡明な方で良かった。
あなたの箱庭──ゲームアプリ「黄昏の剣(つるぎ)」を
支える力が失われたのです。
精霊よりもマナよりも、直接的な……。

【騎士】
あ……ああ……!!
そうだ、あの日だ。
サービスが終了したあの日、
みんな、いなくなった……!!

【あるじ】
記憶が戻ってきたようですね。

【騎士】
物語の中で困難を乗り越え……。
しかし、ユーザー達は愛想を尽かし、関係者も表情を曇らせ。
完結を待たずして、あの日運営は
全てを断ち切った……。

【あるじ】
それ以上はおよしなさい。
己の心臓を貫くようなものだ。

【騎士】
……あるじ様とおっしゃいまAしたか。
(自嘲し)
このような無様な姿を、
見ず知らずのあなたの前で……。

【あるじ】
サービス終了は、
キャラクターひとりのせいで為なされる事ではありません。
また、あなたひとりの身に訪れることでもない。
周りをご覧なさい。

【騎士】
……!?人々が、倒れている!?
彼らは……。

【あるじ】
あなたと同じ、サービス終了したアプリのキャラクター。
勇者もアイドルも、魔法使いも泥棒も、名も無き方々も。
等しくここに辿り着きます。

【騎士】
そんな……。皆一人きりで、私のような剣(つるぎ)も持たず、
壊れた人形のようだ。
彼らを助ける方法は!?

【あるじ】
さすがは騎士殿、正義感が強いのですね。
ですが、彼らはもはや意思疎通ができない。
正気に戻る方が困難です。

【騎士】
……気持ちは、よくわかる。
私にも、カナリア大陸の騎士としての感情と
ゲームキャラとしての願いがあった。
仲間達にも、ユーザーや開発者達にも、敵にさえ、愛されていた。

【あるじ】
ええ。

【騎士】
だからこそ、独りになった事がこんなにも悲しい……。
今だって、この剣(つるぎ)を握っていなければ、
心が折れてしまいそうだ……。

【あるじ】
……剣(つるぎ)。

【騎士】
?あるじ様?

【あるじ】
あなたという存在には、どこか違和感がありました。
なればこそ、目を覚ますまで様子を伺っていたのですが。
その剣(つるぎ)は、この虚しき空世界(からせかい)には不釣り合いな……
炎のような波動を放っている。

【騎士】
これは、月光騎士団入団の際、女王様から授かったもの。
初期装備品です。
特筆すべきことは何もないかと。

【あるじ】
……本当に?

【騎士】

【あるじ】
(耳を澄ませ)
……やはり。
その剣(つるぎ)から、微かな声が聞こえます。
強く胸に抱き、目を閉じ、耳を澄ませてごらんなさい。

【騎士】
……この声は……!
アレン、リーナ、カルカル……旅の仲間達のボイスが……、声がします……!
小さな頃から聞き慣れた音楽のように!

【あるじ】
やはり……。

【騎士】
それから、運営スタッフの声……。

【あるじ】
それから……?

【騎士】
ユーザー達の、声……。

【あるじ】
何と言っていますか?

【騎士】
楽しい、大好き、愛している、と……!

【あるじ】
それは、奇跡です。
誰に忘れられても、あなたは忘れなかったのですね。
愛しい者達の声を。

【騎士】
……あるじ様。
この世界には、地図や、法則や、ゲームシステムや……。
果ては、あるのですか?

【あるじ】
さあ。
私も誰も、探そうと思った事はありません。

【騎士】
それならば……。
それならば、私が冒険をします。これまでそうしていたように。
ここが「忘れられたキャラクターの世界」なら
愛情によって救われる事もあるかもしれない。

【あるじ】
復刻やコラボレーションの話、ですか?
無いとは言えませんが、またこの場所に落とされる場合もあります。
まして「黄昏の剣(つるぎ)」は……。

【騎士】
ええ。我々のゲームは人気アプリではありませんでした。
私もここに倒れる事になるかもしれない。
それでも、それまでは諦めたくない。
この剣(つるぎ)が、勇気を思い出させてくれました。

【あるじ】
……。

【騎士】
この者達と意思疎通はできずとも、
いつか私の仲間に会えるかもしれません。
たとえ会えずとも……あなたの役に立ちたい。

【あるじ】
私の……?

【騎士】
ええ。これでも主人公でしたから。
ガチャでは他のキャラクターの方が人気でしたが、
くじけませんでした。

【あるじ】
……ふふっ。
あなたの冒険活劇を、叶うのなら──。
私も遊んでみたかった。

【騎士】
何をおっしゃっているんですか。
これからです。この空世界(からせかい)を攻略する。
……ああ。今度はあなたが、涙していらっしゃる。

【あるじ】
……え?
(頬の涙を拭い)
本当だ……。
私にも、このような感情が……?

【騎士】
大丈夫です、あるじ様。
この命ある限り、ここの誰も、あなたも──見捨てない。
新たな冒険を下さったあなたに、感謝を捧げます。

【あるじ】
私など……何も、ありません。

【騎士】
いいえ。
あなたは私を案じて下さった、優しい方だ。
あなたの望みは、何ですか?

【あるじ】
……。
別れ、たい。

【騎士】
なにと?

【あるじ】
孤独、と……。

【騎士】
勿論でございます!
さあ、あるじ様。
この手を取って。共に参りましょう。

【あるじ】
……!
騎士殿……。
あなたは、本当に……。
(「奇跡のような方だ」という言葉は声にならずとも、
その表情に浮かび)


【騎士(ナレーション)】
こうして、旅路は続く。
仲間、敵、開発者、ユーザー。
温もりがこもった剣(つるぎ)と、
我があるじ様との、新たな旅路──。


Fin


お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )