ヌトゲノムの涙 107
「ひっひいいいいいいいい!?」
そんな情けない声を上げる奴。さっきまで戦ってた先兵の方が幾分もマシだな……とオードレストは思った。空の上でふんぞり返る分にはあんなに偉そうだったくせに、こうやって同じ目線にまで降りてくると、まるで目も合わせられない程の奴。こんな何の覚悟もない奴に使われて死んでいった部下の方がかわいそうだ。
「私は……私も同じように食べる気か!?」
(お? 少しは気概を見せるか?)
そうオードレストは思ったが、だが続く言葉はそんな物を表すものではなかった。
「私を食べる事がどういう事かわかってるのか? それは天上の全てを敵に回すということだ! それは貴様の終わりを意味してるぞ! 天上が本気で動けば、貴様などぐぎゃああああああああああああ!?」
うるさいからオードレストは捕まえてたそいつの脚を引きちぎってやった。皮と肉が裂けて、骨もあっけなくオードレストの力の前にボキッといった。そして流れ出る血は赤い。
「あ……ああ……私の……足が……」
(天上は来ないみたいだな。もう片方も言っとくか?)
「ひいいいいいいいいいいいい!?」
必死に地面を這って逃げようとする天上の男。何故に這うのか? とオードレストは思った。だってそいつには翼があるんだ。背中には立派な翼が生えてる。それを使えば飛べそうなものだが? オードレストはちぎった足を咀嚼しながら、この羽本物か? とか考えて手を伸ばしてその男の背中からメキメキと片側をはがしてみた。
「ああああああああああああああああああ!?」
轟く断末魔の叫び。それがこの羽がただの飾りではないと物語ってる。確かに付け根の部分は体内へとつながってたようだ。無理矢理にもぎ取られた羽の付け根部分には皮と肉がついてる。そして奴の背中からは血が溢れ出てた。
とりあえずオードレストはその翼も口に運ぶ。これも自信の力の一部にできるかもしれないからだ。とりあえず余すことなく食べるつもりだった。すでに立場は逆転してる。
食う者と食われる者が……だ。
(さて……次はどこをいただこうか?)
「あぁ……何故ですかサリエル様……何故……私を助けてくださらない? 私には……天上の加護がついてると……あぁ神よ……この野蛮な蛮族に鉄槌をどうか……」
なにやらブツブツと言い出した男。この期に及んでまだ天上の救いにすがってるようだ。オードレストはチェルリッズの言ってた事を思い出す。天上にとってこの地上は遊びの場でしかないと。それはつまり、どんな悲しみも不幸も奴らにとっては些事でしかないってことだ。命の価値なんて、奴らは気にしてない。こいつはどの口が野蛮な蛮族などと宣うのか? 先に兵を率いて攻撃してきたのはそちらだというのにだ。
だが、天上人さえもこうやって遊びの駒になり下がるとは哀れだともオードレスト思う。こいつはきっと捨て駒なのだろう。
(貴様は……本物か?)
「ほん……もの? 私の信仰は本物だ。だからこそ……こうやって天上に召し上げられ……この体さえも与えられた。私は……地上の蛮族から解放され、進化した……選ばれた人間なのだ!」
人間言ってますが? とオードレストは思ったが、伝えるのはやめた。けどこれで納得はいった。つまりはこいつは元は地上の奴だった。だから奴らにとっては、結局盤上の駒でしかないのだろう。色々と聞き出したいことはある。だか、こいつは口を割るだろうか? 案外脅せば簡単に吐きそうだが……それも時間がかかる。いつまでもここにいるのはあまりいい気はしない。
天上の増援は来てないが、それでも見られてる気はする。そこでオードレストは考えた。食べる事で相手の力を奪えるのなら、記憶だって奪えるのでは? と。だってここに……この頭にすべては詰まってるはずなのだから。心の臓がこの世界では最も重要な心の部分とされてるが、チェルリッズは頭こそに大切な物は詰まってるといっていた。
だがオードレストは躊躇ってもいた。今まで全部を食っても記憶が入ってきたことはなかったからだ。ようやく手に入れた天上を知ってる奴だ。奴らの内情を知りえる貴重な情報源をできるかどうかの実験台にするのはどうかと……だがこいつの声も言葉も酷く胸に障る物がある。そもそもが重要な事なんて持ってないからこんな役回りにさせられたんでは?
だったら、実験に使っても問題ない気がしてきた。なるべく新鮮な内に食べた方がいいだろうか? かなりの血が流れてるから……そうとうこいつも弱ってるはずだ。
オードレストは男を押さえつける。
「な……なにをする! やめろ! やめろおおおおおおお!!」
必死に頭を振るう男にオードレストいってやる。
(神にでも祈ってろ)
と。そして男の頭と体は切り離された。
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