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ひとり旅は倉敷から 準備篇

 長く苦しかった地獄の案件が終わりを迎えて、労働基準法的にも「今年はもう店仕舞いかな」と呑気に構えていた矢先、次の案件が入ってきた。
 自粛期間中も出社し続けて休みが無かった今年、残り2ヶ月くらいはゆっくりしたかったけれど、同郷のプロデューサーから指名をいただいたという事で、「やります」と一つ返事で答える。一緒に仕事してみたかった先輩もチーフとしてついてくれるから、2ヶ月前に比べて精神状態はかなり良い。

 先輩たちから電話で案件の説明を受けていた際、制作としてのキックオフはもう少し先だと知る。電話の最後には「今週の平日は休んで、どこか旅行とか行っておいで」と気遣いを込めて、旅をすすめてくれた。GoToトラベルの影響もあるのか、最近何故か僕の周りにはこういう人が多い。
 業界的に仕方のないことだけど、休みは急に言い渡されるので、フットワークの軽さが人生を上手に過ごすカギ、ということなのだろうか。弾丸ひとり旅には以前から少し憧れもあり、特にネガも無く、粛々と旅行の準備をすすめていくことにした。

 旅行地探しで条件としたのは、GoToトラベルが使えて、1泊2日で楽しめる、お天気が良いエリア。仕事で東北の名所をひたすら調べていた時期があって、東北になることを期待しながら全国天気図をのぞいてみたら、見事なまでに悪天候。第2候補だった石川も良好では無く、名古屋や関西面が良さそうなことがわかった。そして、僕は〈名古屋や大阪はひとりで行っても面白くないだろうな〉〈どうしてそこに?と驚かれたいな〉と、持ち前の天邪鬼を発揮。結果、観光地のあてもないのに、岡山県に決まった。
 後から知ったことだが、岡山は「はれの国」と言われるほど、天気が安定しているらしい。今後もこのロジックで行き先を決めれば、また岡山になりそうだ。

 岡山といえば、高校で所属していた生物部の合宿で、高知の四万十を目指した際に乗り換え駅として使った覚えがあるくらいで、僕とはほぼ無縁の土地だった。開拓するワクワク感と勢いだけで決めてしまい、プランは全く固まらなかったけれど、倉敷のレトロな街並みの写真を数枚みて、大丈夫だろうと安心(慢心)。万が一飽きたら、時間は少し掛かるけれど香川県の直島にフェリーで逃避行すればいいや、くらいに思っていた。
 前日になり、慌てて「楽天トラベル」で駅前のおしゃれビジネスホテルを4000円台で予約。新幹線も窓側の席を往復でおさえて、テスト前に湧いてくる謎の自信のような心持ちで、当日の朝をむかえた(バカなので荷造りを直前まで失念していて、出発前にタウンユースの黒リュックに詰め込んだ)。

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