☆☆☆☆新しい労働社会 濱口佳一郎

日本型雇用システムの本質…長期雇用制度、年功賃金制度、企業別組合

雇用契約はモノではなくヒトの行動が目的ですから、そう細かにすべてをあらかじめ決めることもできません。ある程度は、労働者の主体性に任せるところが出てきます。しかし、……雇用契約でその内容を明確に定めて、その範囲内の労働についてのみ労働者は義務を負うし、使用者は権利を持つというのが、世界的に通常の考え方です。こういう特定された労働の種類のことを職務(ジョブ)といいます。

これに対して日本型雇用システムの特徴は、職務という概念が希薄なことにあります。……雇用契約それ自体の中には具体的な職務が定められておらず、いわばその都度職務が書き込まれるべき空白の石版であるという点が、日本型雇用システムの最も重要な本質なのです。こういう雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約と考えることができます。日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくメンバーシップなのです。

日本型雇用システムでは、雇用契約で職務が決まっていないのですから、ある職務に必要な人員が減少しても、別の職務で人員が足りなければ、その職務に異動させて雇用契約を維持することができます。……絶対的に人員が過剰であれば、解雇が正当とされる可能性は高いでしょう。しかし、その場合でも出向や転籍といった形で、ほかの企業において雇用を維持する可能性が追求されることもあります。ここで最大の焦点になっているのは、メンバーシップの維持です。

もし日本以外の社会のように、具体的な職務を特定して、雇用契約を締結するのであれば、その職務ごとに賃金を定めることになります。そして同じ職務に従事している限り、その賃金額が自動的に上昇するということはあり得ません。……賃金決定の原則が職務にあるという点では変わりません。

採用における新規学卒者定期採用制度と退職における定年制が日本の特徴

重要なのが個々の職務ではなく、企業における長期的なメンバーシップである以上……

日本以外の社会では、企業が労働者を必要としなくなれば解雇するのが原則。解雇事由の原則を純粋に貫いて、正当な理由のない解雇をも認めているのは、アメリカぐらいで、ヨーロッパ諸国では多かれ少なかれ解雇権は制限されています。とはいえ、景気変動に応じて、労働力を調整することはやむを得ないことと考えられています。

整理解雇四要件 企業は整理解雇をする前に労働時間や賃金を減少させたり、異動によって解雇を避けることが求められているのです。

日本以外の社会では、ブルーカラーの労働者は時給制が普通です。

日本の特徴は、ブルーカラー労働者に対しても人事査定が行われ、高い評価を受けた労働者は昇給額も大きく……という点にあります。日本以外の社会では、ブルーカラー労働者は通常人事査定の対象ではありません。
職務を遂行する能力とか、職務に対する意欲、努力といった主観的な要素が査定の重要な要素となっています。企業メンバーとしての忠誠心が、求められるのです。


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