リスカ

「ありがとうございました〜」
聞きなれたこの言葉が僕の背中を後押しさせることを知らないものだから幸福なもんだ
そう思いながら店を出る
僕はポケットにカッターを忍ばせ
期待半分恐怖半分の気持ちの最中に居る
家に帰って、封を開ける
何気ない、買い物の後の行為も今じゃ特別なものに感じる
カチカチ…
音を立てながら鋭利な凶器が顔を出した
ピタッと手首に付ける
鉄の嫌な冷たさが感じる
冷たい言葉が人を傷付けるとは言うが
冷たい刃も、当然の如く人を傷付ける
同じ傷でも心と身体
どちらが治りがはやいか、なんてのは
意地の悪い質問なのだろう
冷たい言葉で心を傷付けられ
冷たい刃で身体を傷付ける
なんとも皮肉なものだ
色々考えてるうちに思考が麻痺してきたのだろう
「さっさと切ろう」
そんな思考に塗り潰される
ザシュ…ブシュッ…ザクザク
「…ッ……」
当然ながら、痛い
ズキズキする
真っ赤な鮮血が流れ、滴り落ちる
それを見た時僕は
不思議と恍惚な表情になった
血が流れ滴り落ちる
当たり前のことだ
カッターで手首を切ったのだから
ただその当たり前が僕にはとても特別な物に感じた
血が流れるという当たり前なことが
僕に生きている事を実感させる
もちろん心配して欲しい気持ちもある
ただそれよりも何よりも
生きている実感が欲しかった
赤い、紅い血は
僕に生きている実感を持たせるには十分だった
それ以降僕は定期的に手首を切るようになった
治ればまた切り、治ってなければ別のところを切った
最初と違いもはや手作業だった
死にたい
嫌な事があった
些細な理由でも切るようにもなった
最早理由もなく切るようにもなっていた
今日も僕は
自分の血に想いを馳せる

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