陸上自衛隊 災害派遣用ライトを考える

災害派遣で使われるライトは「私物」です

 自分はいろんな画像を見ていて、この点に気づきました。そして、これで大丈夫なのか?と不安になりました。官給品がなく、隊員は各自で仕方ないから自費で購入しているわけです。無慈悲ですね。

官給品がない問題

 官給品の全てが役に立つわけではない、というのが特に陸自の問題です。予算の問題と優先度の問題はありますが、自費で購入しているライトは明らかにとにかく必要だから買ってきたというものが多いです。官給品じゃないという問題はこれです。「仕様が一様ではありません」一応言っておくと、それは良い場合も悪い場合もあります。特に陸自の官給品はなぜこうなったのか?というのが予算の圧迫でそうなったんだろうなと想像がつく場合が多いので、私物の方がマシなことも割とあります。

とは言え

 十分に機能しないライトを災害派遣で買い替え続けるのは、活動そのものに支障をきたしているのではないか?という不安が強いです。災害派遣では、文字通り災害の最中に投入されることがあります。具体的には豪雨とか台風とか水害です。ライフラインも死んだ豪雨の中で、ライトが死んだら??例えそれが町中であっても、地方の町中でインフラ死んで真夜中の豪雨の最中で、場合によったら人命救助の真っ最中なんてこともあり得る話です。視界が効かなきゃ人間なんにもできません。まして、土地勘のない土地で何も見えなければ二次被害が起きる可能性もあります。

ライトをナメていないか?

 自分が不安視するのは、ライトを十分に知らない人が30ルーメン程度のIPx3程度の製品をとりあえず買って、現地で壊れて他の隊員とライトをシェアせざるを得ないみたいな状況が発生してる可能性です。また、近年の問題として「とにかく強力なライトを買ってしまう」という問題もあるかもしれません。

強力なライトが役立つ場合があるということは認めるものの、昨今の強力なライトは一瞬で遠くの人の目を焼くほど強力なものがあります。そして、強力なライトは当然の問題として、消費電力が高いです。多くの場合、その高出力は内蔵バッテリーに支えられています。必然的に、バッテリーが尽きた場合、その場で再充電することはできません。その使用時間は最大で2、3時間と言ったところでしょう。繰り返しますが、これが絶対に役に立たないと言っているわけではありません。「それだけでは完結できない」というのが主張です。

 恐らくですが、普段ライトの仕様を丹念に読んでる人ってライトマニアか山系の人ぐらいだと思うのです。山行く人はさすがの選択だなと見てますが、そうじゃない人も多いです。大抵、防水性能がろくにない製品ばかりです。

 何が問題か?単に個人が行動不能になるだけなら、そんなに問題はありません。災害派遣も活動は様々ですから、穴掘ったり作業系の仕事なら他の隊員とシェアすればあんまり支障はないと思います。ところが、重要なのは行方不明者や人の捜索です。人数が必要で、個々に行動できないと効率が落ちます。結果として、人が死ぬかもしれません。夕刻以降になると、個々の視界が確保できないことは、救助者にとっても要救助者にとっても有害に作用する可能性が高いです。

災害派遣用ライトの要件

十分に役立つ仕様が問題です。十分に役立つというのは、ライトが単に明るいということではありません。その活動に有効な性能を持つということです。1つは防水性能です。水害の中で活動する陸自隊員の写真はそこそこに見る機会があるでしょう。豪雨や台風の真っ最中だったりするんです。場合によれば、ちょっとした転倒で濁流にライトを水没させるかもしれません。それで動かなくなったらダメなんです。望めるならIPx8が欲しいところです。

既に主張した通り、ライトは強力ならいいというものでもないんです。照射パターンの問題があり、光量モード、増減機能の問題があり、消費電力と駆動時間のバランスの問題があります。また、額装着型ならそのバンドの仕様までが性能に入ってきます。独立した電源に頼る以上、その電源を効果的に使い、可能なら常時供給できる必要があります。

雑に言うと 防水性能とある程度の耐衝撃性能があって、不可避と言える状況を除き、過酷な環境で仕様通りに、おおよその想定通りに動作し続けることが期待されるんです。「人命救助に関わる人のライトは、予期しない格好で止まることがあってはならない」んです。そして、過酷な環境に耐える性能があってから、必要な光量やパターンやモードが論じられるべきなんです。過酷な災害現場で動き続ける性能がなければ、どんなに光量があっても意味がありません。壊れてしまったら終わりです。

馬鹿を承知で言えば、1万ルーメンで100時間動く完全非防水のライトより、濁流の水没や多少の打撃にも耐えてしっかりヘルメットに固定できる80ルーメンで10時間確実に動くライトのほうが間違いなく役に立つということです。

米軍で標準装備しているライトは超強力だとお思いかもしれません

が、ストリームライト社の供給する「現代型L字ライト」ことサイドワインダーは、ローモードで7ルーメン、ハイモードでも僅か55ルーメンと、現代では並みとしか言いようのない性能です。これは恐らく「最低限歩行できる限界の性能を、米軍独自に試行して決定した」んだと思います。IPx7の耐衝撃仕様のボディで、単三電池二本で駆動し、ハイモードで8時間、ローモードなら実に90時間駆動し続けます。装着手段としてMolleシステムに対応する頑丈なクリップが装備されていて、戦闘用ベストやリュック、もちろんひっかかれば着衣にでも固定できます。ローモードは緊急時や休憩時で、周辺をちょっと照らせれば十分という、これも現実的な仕様です。しかも、ローモードは90時間、救助を待つ状況になったら安全な場所に避難し、最低限の行動だけはできるという仕様なのです。

アメリカは豪雨災害が極めて多い国

ですが、そこで採用されているライトの仕様の1つがIPx7という防水仕様です。一般的には、台風でもIPx4で十分だとされています。ですが、米軍はその上の上の上、IPx7を採用してるんです。恐らく、転倒や不意の事故による水没、あるいは浅い川や海を歩行したり泳いで渡る状況まで想定している思われます。勢いのある水流の中に水没すると、IPx4では耐えられません。IPx4はそういう環境を想定しないからです。

米軍用ライトを引き合いに出す理由

現実の想定に基づいて、米軍で採用され使用されているライトは参考としてこういうもの、ということです。およそ想定される殆どの状況で、このライトは必要最低限の光を供給し続け、その間は原野だろうと海や川の中だろうと行動し続けることができます。十分役に立つライトの1例です。

陸上自衛隊の災害派遣に必要なのは?

随分遠回りになりましたが、やっつけていきます。
1、IPx7以上の防水性能を持つこと 2、ある程度の衝撃や打撃に耐えること 3、乾電池式であること 4、額、着衣、装備の上から十分に固定できる装着手段を持つこと 5、7ルーメンの短距離光量モードを備えること 6、70ルーメンの中距離光量モードを備えること  7、SOSモードを備えること

あたりが基本仕様になると思います。短距離行動モードというのは本当に手元や周囲が照らせる最低限ということですが、重要なのはこのモード、人と接する場合や書面の確認に有効だということです。人の目を刺激する光量で対面するのは問題が大きいです。なんなら本来の使い方とは違っても、そのために赤色LEDを備えている方がいいまであります。

以上の基本仕様の上で

 問題は遠距離モードと照射パターンなのです。ランタイム(駆動時間=活動時間)に関係してきますし、モードの使い分け次第でもあるのですが、豪雨や台風だと視認性が悪化します。また、白色LEDは演色性が悪く刺激を感じやすいという問題もあります。そして、遠距離モードの用途であります。遠距離モードを捜索に使うのであれば、限界750ルーメンあたりでしょうか。

 山野や谷、目標物が一掃されてしまったような区域で、視界も悪化している場合、想像以上の光量が必要になる場合があります。自衛隊は部隊行動を基本とするので、小銃手+機関銃手みたいに長距離照射(長)を備えるBモデルをつくって部隊の1人か2人が持つという手もあります。なんなら万ルーメン級のミニ投光器の市販モデルを班に1人か2人持って、必要な時だけ投入するという手段もあります。何であれ、ちょっとした作業や周辺状況の確認+歩行程度なら300ルーメンぐらいあれば殆どの場合は事足りるはずなので、そこらへんが一応の基準になるのではないかと思います。

蛇足

フォーカスコントロール、赤色LED、増減機能、応援要請モード

 ペリカンプロダクツのダイビング用ライトを使用した経験のある人は多くないと思います。ものすごい遠くを照らせます。超スポットで「飛ばす」仕様なんです。かなりの遠距離を照らせますが、超スポットなので遠距離になると殆ど視認できません。100m先の僅か10cmの円の中にどんな絵が描いてあるか?という問題です。

 で、近距離は対人問題とか周辺の障害物の視認など、現実的な問題があってワイド気味がいいのです。これも馬鹿みたいに言うなら、100km先を照らせる5cmの円より、15m以内を一応見える程度に照らせる50mの円の方が現実的に優秀なのです。ですから、最近は超高輝度で周辺を超ワイド照射するライトなんてのもあります。

 現実の現実的な話をすると、近距離は3~5mの円、100m先だと2mぐらいの円で視認できるとだいぶ具合がいいと思います。1m~7mあたりで無段階調節できれば理想ですが。

 赤色光は、原色を損なうという問題はあるものの、とりあえず対象物だけ見えて目を殆ど刺激しないという大変素晴らしい特性があります。ですから、野戦活動ではなくても、野外での近距離の対人面接とか書類確認なら十分有用ということです。軍隊では赤色光は周辺に自分の位置を悟られずに目標物を確認するという使い方をします。

 増減機能は、最大光量から最低光量まで無段階に調節できる機能です。これを有効に活用できれば、消費電力の節約に繋がるということです。問題は、増方向と減方向が自在にできる製品はないというところです。

 応援要請モードというものがどこまで現実的か?というと微妙ですが、SOSモードと同様、光が必要な条件下では、それだけで通信を行えるというメリットもあります。何らかの理由で無線などの通信手段が不能になった場合、応援要請モードで通信できないことが確認できるとか、あるいはちょっと遠い隊員に対して応援要請モードを使用するなどの使い方ができるかもしれません。超雑に言えば、黄色あるいはオレンジLEDで三三七拍子とかそんな感じに。

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