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ゲーム「The Sexy Brutale」のはなし

 2021年12月のPS Plusフリープレイで配信されたこのタイトル。恥ずかしながら私はこのフリープレイでの配信がきっかけで初めてこの作品を知るに至ったのだが、予想を超えて非常に楽しめるゲームだったのでレビューしたい。
 はじめに、本作の公式サイトからストーリーのあらましを引用しておく。

 舞台は英国の大邸宅『セクシー・ブルテイル』。毎年開催される仮面舞踏会に招待されるのは限られたゲストのみ。完璧に訓練された使用人たちは客のどんな要望にも応えることで知られている。だが、今年は何かが恐ろしく、とてつもなく間違っている。客の要望などまったく満たされることはないのだ。
 殺害されるゲスト達。館の使用人はなぜ殺害を企むのか。そしてループの原因、館に潜む秘密、陰謀は何なのか。それは自分の目で確かめるといい。時間はたっぷりとあるのだから。

 まずなにより、このゲームを起動した際にタイトル画面で流れるテーマソングがとても良い。筆者個人がジャズミュージックが好きだというのも大いにあるのだが、この曲が流れ出したとたん作品世界に一気に引き込まれてしまった。とにかくこのテーマが作品の世界観にマッチしているのだ。仮面舞踏会に、カジノに、ジャズ。なんという甘美な取り合わせだろう。
 そしてそこで夜毎に引き起こされている惨劇というスパイスも加わって、華やかだけれど陰惨で、羽目を外しているけれどどこか冷酷な、独特な雰囲気が醸し出されている。

 舞台となるセクシー・ブルテイルでは、同じ一日が延々と繰り返されるループ状態が何者かによって引き起こされている。そしてその午後12時から午前12時に至るまでのあいだに、すべての客人たちは使用人によって殺害されてしまう。その悪夢のループから突如抜け出した主人公ラフカディオ・ブーンは、その悲劇を止めるべく行動を開始するのだった。
 というところからゲームは始まる。華やかな仮面舞踏会やネオン輝くカジノの世界からは考えられないような、陰謀と血みどろの殺人劇。そのギャップに否応なく惹かれてしまう。
 この作品はなんと言っても、世界観や雰囲気作りがとても上手い。カジノのルーレット台や歌手が立つ壇上やマジックのステージなどのいわゆる“表舞台”だけでなく、その裏側にある控室や備品を置く倉庫や待合室など、“人々が活動・生活している痕跡”までしっかり作り込んでいる。グラフィック自体はミニチュア風で可愛らしい見た目なのだが、細かいディティールまでこだわって作られているのが分かる。
 そのおかげで没入感はすさまじい。同じ一日を繰り返すというシステム上、同じ場所を何度も行き来しているうちに飽きてきてしまうというのはありがちな話だが、本作ではそれがない。似たような部屋が続くというようなこともなく、ただの廊下でさえ細かな装飾や色合いを変えて同じに見えないように工夫がされている。

 見た目だけの話でなく、作品内に登場する人物たちにも細かい設定がなされている。ゲーム中で入手できる招待状を読むことでそのキャラクターの人となりを詳しく知ることが出来るのだが、意外なキャラ同士に繋がりがあったり、ストーリーとは違う発見があって面白い。
 こうした土台となる部分がしっかりしているからこそ、その上に面白いストーリーという建造物を立てることが出来るのだ。たとえグラフィックがリアル寄りでないミニチュア風であったとしても、それは同じ。ひとつひとつのアイテムが丁寧に作られているからこそ、そのゲームの世界にのめり込む事ができるわけだ。
 ミステリー作品の肝であるため、結末についてはあえて語らない。が、時間をかけて謎を追ってきたことに相応しい、深みのある終わりかただったと思う。決して面白おかしな気持ちでこの惨劇を生み出したわけではない、というのがこの作品を浮ついたもので終わらせない、素晴らしいところだ。

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