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はじまりはいつも…

あれほどの名曲、曲がりなりにもその後30年にわたりファンとして愛し続ける人の(ソロとして)最大のヒット曲を“初めて”聞いた時の記憶がない。


当時私は小学5年生だった。
チャゲアス最大のヒット曲「SAY YES」がリリースされたのと同じ年、そのほんの数カ月前に出された曲だ。SAY YESを初めて聞いた時のことは何となく覚えている。じゃあ、「はじまりはいつも雨」は?

SAY YESを知ったころにはすでに町中に流れていて、もちろん耳にしていたはず。でもSAY YESと同じ人が歌っているとは知らずに聞いていたように思う。次第にチャゲアスという二人組を知り、そのうちのASKAがソロで歌っている曲だと認識してからようやく、おぼろげだった輪郭が見え始めたような気がした。

この曲といえば? そんな問いをあらためて自分に投げかけてみる。誰にも言ったことがないが、実は私にとって「初めて曲を聴いて泣いた曲」なのだ。

わずか10歳の幼い私に恋愛の機微がわかるはずもない。でも、歌詞の一つ一つがとにかく美しく、情景が浮かび、甘い優しい歌声と穏やかな旋律が相まって涙がこぼれた。しかも、一度ではない。聞けば聞くほど、何度も何度も涙したのだ。

僕は上手に君を愛してるかい 愛せてるかい 誰よりも誰よりも
君は本当に僕を愛してるかい 愛せてるかい 誰よりも誰よりも

恋愛らしい恋愛もしたことがない身で涙を流すほど感じ入っていたとは、なんと早熟な小学生だったのだろう。

今思えば、ほんのり、ASKAに恋に似た感情を抱き始めていたのかもしれない。大人への憧れ、愛し愛される関係への憧れ。

その後の私は、大小の波はありつつ30年間にわたり彼のファンである。人生の大半を共に歩むほど深く長く愛することになるアーティストとの、出会ったばかりのころの曲。きっかけの曲でもある。

音楽的魅力については語れる知識がないため割愛するが、歌詞の世界が本当に美しいと思う。あらためて読んでみてほしい。小学生でも理解できる分かりやすい言葉で構成されているのに、とても身近であり一方で壮大なスケールすら感じられる。

今夜君のこと誘うから空を見てた はじまりはいつも雨 星をよけて

サビのワンフレーズ。冒頭の

君に逢う日は不思議なくらい雨が多くて
水のトンネルくぐるみたいでしあわせになる

に見事に呼応するこの歌詞。雨じゃない、星というキーワードを選んだところがあまりにもにくい。

星をよけて ふたり 星をよけて

何度聞いても美しい。愛おしい。もしも私に絵心があったなら、ぜひとも作品として描いてみたいと思わせるほどだ(残念ながら実際は微塵もない)。


私にとって、いつしか雨の日は大好きなこの曲を口ずさみ、ありありとその世界を思い描けるとっておきの日になった。


もともとシングルリリースを狙って作られた楽曲ではなかった。パナソニックにCMタイアップの依頼をされ、放送後想像以上に世間の注目を集め、急遽シングルリリースされたから今がある。とはいえまさか当時は、30年後も変わらず雨の日の定番曲として老若男女に愛され続ける名曲になるとはだれが予想できただろうか。


そんな素敵な名曲は30年前のきょう、発売された。今となっては懐かしい8センチCDを手にとり、カップリング曲「君が愛を語れ」とともにじっくりと味わってみたい。


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