【SH考察:082】Romanの中にも並行世界がある説
Sound Horizonの絵馬に願ひを!とRomanには類似性があることが知られている。直感的にすぐに気づけるのは容姿やナレーションの内容といった点だ。
しかしよくよく考えると絵馬に願ひを!の目立った特徴である、2つの並行世界を廻るという点もまた、Romanでも実はみられる特徴なのではないだろうか。
今回はこの仮説が成立するかどうかを検証した。
対象
5th Story Roman および隠し曲
7.5th or 8.5th Story 絵馬に願ひを!Full Edition
考察
Romanと絵馬に願ひを!の類似性
絵馬に願ひを!は明らかに、意図的にRomanと似せていると思われる。まずはわかりやすい類似点を挙げよう。
中央の男に仕える青と紫の対になる存在
ナレーション(生まれて来た意味 死んで往つた意味~)
花と石の対比
1. 中央の男に仕える青と紫の対になる存在
これは見るからにわかりやすい。
Romanではイヴェールの左右に青のオルタンス、紫のヴィオレットという双児人形がいる。
そして神社/能楽関係者の左右にも、青の狛犬「わ」、紫の狛犬「をん」がいる。
「わ」「をん」については、色使いが明らかに双児人形に寄せてあるほか、袂に紫陽花と菫の花弁が描かれていること、紫の「をん」の着物の合わせが死に装束と同じ左前であることから、明らかに生死を意識しRomanに寄せている。
動画で色味も袂も合わせも確認できる。
ただ反転というわけではなく、声が異なりモーションも明らかに別撮りで、Romanの双児人形同様に、自我のあるそれぞれ別個の存在であることがよくわかる。
2. ナレーション
Romanの『朝と夜の物語』と絵馬に願ひを!の『狼樂神社』『狼樂大社』で、ナレーションが酷似している。
太字にした箇所は差分だが、あえて似せてあることは明白だろう。
ここでは表記と読みだけ見ているが、『狼樂神社』の方は『朝と夜の物語』同様に大塚明夫氏がナレーションしているため、より類似性を強く感じられる。
(『狼樂大社』のナレは深見梨加氏。ただ『11文字の伝言』の終盤のナレにも「生まれてくる意味 死んでいく意味~」のフレーズがあり、それは深見梨加氏が担当しているため、やはり聞き覚えのあるナレになっている)
3. 花と石の対比
これは上述した2つと比べると少し見つけにくい類似点だろうか。
(SNSでは最近たびたび話題に上がっているが)
まず前提として、絵馬に願ひを!の佐久夜 姫子と石長 姫子は、その名からして「(咲く)花」と「石」の対比構造をはらんでいる。
彼女達にまつわる歌詞やナレーションでたびたび触れられている。
いくつか例を挙げよう。序盤での対比はここがわかりやすい。
それから参詣せり曲でも例を挙げることができる。ナレーションが彼女たちのことを花/石と直接的に表現している。
この花と石というキーワードで表現したい要素としては、短命/長命、儚い/不朽、刹那/永遠といった、変わりゆくものと変わらざるもの、といった対比構造だと思われる。
そして、この花と石の対比は遡るとRomanの時点でもはっきりと登場している。
ここで歌詞上は「宝石」と表現されているが、発音が明らかに「pierre/ピエール」で、その意味は宝石ではなくただの石だ。宝石の場合は「bijou/ビジュー」になる。
Romanも2つの並行世界が入り混じっている可能性
ここまでRomanと絵馬に願ひを!の類似点を見てきたが、絵馬に願ひを!のい最大の特徴は2つの地平線が並行しているところだ。
二人の姫子は狼樂神宮に行きつくまでは同時に存在できない。
Romanもまた、明示されていないだけで、同じように2つの地平線が並行している可能性はないだろうか。
そのように思いながら歌詞を見てみると、それらしき匂わせを感じるフレーズが目に入ってくる。
「時を騙る」は同一の時系列・世界の中での事象とは限らないとも受け取れるし、「何度でも廻り直す」は絵馬に願ひを!で行った因子集めを彷彿とさせる。
Romanの楽曲を分類できるか
仮に「Romanの中には実は2つの並行世界がある」としよう。
この場合、各曲を2種類に振り分けられるか検証する必要がある。
絵馬に願ひを!では、二人の姫子どちらが存在・関与しているかという点で振り分け可能だった。言い換えると、同時に存在し得ない二人によって判別ができたということになるため、Romanでも同様に両立し得ない設定がないかを確認する。
そこで気になったのは宗教観の違いだ。キリスト教的概念があり現実の世界観と近い曲と、キリスト教っぽさが弱く別の宗教観やそれに伴う国家形態がみられる曲がある。
たとえば以下のように振り分けられるのではないだろうか。
2つの分類は便宜上AとBと呼ぶ。
まず第一に、「天使」という語彙があるか否かで分類できる。
「天使」は一般にユダヤ教・キリスト教・イスラム教の神に仕える存在であるため、「天使」が登場する曲はキリスト教がある世界観であると考えられる。
これで分類Aの5曲中、3曲か4曲は説明できる。
このうち『黄昏の賢者』での言及は、天使そのものというよりは曲名からの引用の意味合いが強いためやや怪しいかもしれないが、こちらに分類しても違和感がないためいったんこのまま分類Aに含むとする。
残りの『星屑の革紐』は天使への言及がないが、エトワールの母親で黒犬プルーに転生した女性視点の歌が『11文字の伝言』であると考えられる。
そのため、『11文字の伝言』と同じ分類Aに入れて良いのではないだろうか。
残りの曲も、備考に書いた通りだがChronicle 2nd(=キリスト教がなさそうな世界)と通ずる設定から分類Bとしてひとくくりに出来そうだ。
つまり、Romanは明示されていないだけで2つの異なる世界(分類A・B)を廻っていたと考えることができる。
Romanの結末
絵馬に願ひを!では何度も繰り返し15の因子を集め、《便宜上【彼】》が生まれ、狼樂神宮が成立する世界に行きつくところを目指した。
ある種のゴールというか、トゥルーエンドのように設定された結末のようにも思えるが、同じようにRomanにも目指すべきエンディングはあるのだろうか。
そもそも『焔』以降の各曲は、イヴェールが生まれてくるに至る物語を探すために集められた"物語"だ。
ならば当然、目指すべき結末はイヴェールが自身の生まれるに至る物語を見つけるという結末だ。
Romanには絵馬に願ひを!のような選択制はないが、伝言を「しあわせにおなりなさい」と受け取るか、「おりあわせしになさいな」と受け取るかという選択はあった。
前者は『truemessage』で、『11文字の伝言』でハミングになっていた箇所がちゃんと「しあわせにおなりなさい」と歌われる。
これは一見平和だが、目指していた結末ではない。繰り返しになるが、この母親はエトワールの母親の可能性が高く、イヴェールが生まれるに至る物語ではない。
(「嘘を吐いているのは誰か」という台詞もあるため、『11文字の伝言』と『星屑の革紐』を伝えたヴィオレットが嘘を吐いた可能性はあるが)
後者は不穏だが、イヴェールが生まれるに至る結末という意味では回答になっている。
『屋根裏物語』に至り、明らかにミシェルがイヴェールを生み出している。
しかもこの物語はオルタンスとヴィオレット両方が関与しているため、嘘を吐くなら二人が口裏を合わせていることになり、単独の嘘より難易度が上がる。
結論
絵馬に願ひを!は2つの世界を廻りながら、《便宜上【彼】》が生まれるに至る物語を探していた。
Romanではイヴェールが生まれるに至る物語を探していたことはもとより明白だったが、その世界を2つに分類できることから、絵馬に願ひを!同様に2つの世界を廻りながら探していたのでは?という仮説を立てることができた。
また、絵馬に願ひを!では選択を繰り返しながら結末に至った。
同じようにRomanもまだ伝言の真意をどちらと受け取るか選択することで、結末に至った。
絵馬に願ひを!とRomanは、容姿やナレなど直感的に理解できる類似性に留まらず、その出発点から過程、結末に至るまでもが類似していると言えるのではないだろうか。
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マスコット画像:
「Sound Horizon」×「カラコレ」ミニフィギュア(筆者所有)
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2024/03/16
初稿
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
2024/05/05
マスコット画像追加
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