【SH考察:099】シャイタンのモデルはアイレンかもしれない
Sound Horizonの聖戦のイベリアには、名前不詳で暫定的にシャイタンと呼ばれている焔の悪魔がいる。
彼自体は創作上の存在だが、そのキャラクターのヒントとなる伝説や神話上の存在がいるのではないだろうか。
今回はそのような存在を見つけたため、情報を共有しようと思う。
対象
Story Maxi 聖戦のイベリア
考察
そもそも火属性の超人的存在が少ない
シャイタンのモデルを考えるにあたり、まず彼の最大の特徴である「焔(炎・火)」かつ「悪魔」という特徴は満たしておきたい。
しかし実際のところ、ある程度有名な神話や言い伝えにおいて、火属性の悪魔や精霊や妖精など超人的存在はかなり少ない。
火は人間の文明を躍進させたものであり、人為的なものと言える。人が恐れたり崇めたりする対象は、人の力が及ばない自然に向きがちで、それゆえ大地や水に関するものに偏る傾向がある。
火関連での有名どころはサラマンダーやフェニックス、イフリートくらいだろうか。しかし前2つは基本的には人型ではなく、シャイタンとは乖離する。
イフリートは魔人や悪魔とされることも多いため、サラマンダーやフェニックスと比べるとまだシャイタンのイメージに合う。
ただしイフリートはイスラム世界で生まれた存在であるため、レコンキスタより前(=イスラム勢力がイベリア半島に来る前)にイベリア半島で封じられた存在であるシャイタンとは合わない。
創作上の存在とはいえ、聖戦のイベリアは全体的に史実を追っていくストーリーになっている。そこで突然全く関係ない地域の伝説からシャイタンの設定を引用すると雰囲気をぶち壊してしまうのではないかと思う。
そのため「焔(焔・火)」かつ「悪魔」かつレコンキスタより前にイベリア半島に到達したことがある民族・種族にルーツがある伝説から引用していると考えている。
ケルト神話の悪魔
いろいろと調べてみたところ、ケルト神話の炎の悪魔(?)の存在の行き当たった。
ケルト人とは、今でこそアイルランドのイメージが強いものの、かつてはヨーロッパの広範囲に存在していた。
このように、イベリア半島を含むかなりの広範囲に分布していた。
ケルト人の伝承は口伝を重視していた。さらにヨーロッパではキリスト教の影響が強く、ケルト神話の存在は薄らぎ、ほとんど文字記録が残っていない。
そのため、イベリア半島で実際どのような形で言い伝えられていたかは定かではない。今回話す内容は主にアイルランドに残っている記録を参照したものになる。
この口伝重視という特徴は『争いの系譜』の冒頭で語られた内容とも符合する。
伝承の詩が文字に起こされていた可能性もあるが、吟遊詩人によって語り継がれたとみてもおかしくない。
このケルト神話に、アイレンという名の悪魔(?)が登場する。
アイレンは不思議な音楽で民を眠らせ、その後炎の息吹を放って燃やし尽くすとされる。
ケルト神話では、フィン・マックールという英雄がおり、アイレンを倒した者に褒美を与えるという上王の言葉を受けて倒しに行く。
アイレンは竪琴で周囲の者を眠らせてしまうが、フィンは対策としてビルガという魔法の槍を持って行った。
この槍には月光のように青く輝く鉄の穂先があり、その穂先を額に当てると眠気を感じずに済むという効果があった。
一説によると、この槍を作ったのはトゥアハ・デ・ナハン(神の一族)の鍛冶屋レインだという。
焔の悪魔と蒼氷の石
ここまでの情報から、『争いの系譜』で触れられている伝承を断片的にかすめている点がみられる。
具体的には、神の一族が作ったとされる青く輝く槍があることと、焔の息吹を吐く悪魔がいることだ。
ただあくまでもかすめているという程度で、『争いの系譜』で悪魔を封じたのは槍ではなく秘石であるという大きな違いがあるし、青という色の表現もケルト神話では「月光のように」という表現だが、『争いの系譜』では「蒼氷」という表現でイメージさせるものが異なる。
結論
シャイタンそのものは創作だが、そのキャラクターとしての特徴の参考にした存在がいるのではないか。
そのように考えた際、特徴をかすめる要素を持つ悪魔がケルト神話に残っていた。
ケルト人はレコンキスタが起こるずっと前にイベリア半島に存在していた民族だ。その神話の中にアイレンという、炎の息吹を吐き、青く輝く槍を持つ英雄に倒された悪魔がいる。
モデルと言えるほど正確には合致しないものの、参考程度にはなった可能性はあるのではないだろうか。
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マスコット画像:
「Sound Horizon」×「カラコレ」ミニフィギュア(筆者所有)
参考文献:
山北 篤(2008). 『図解 火の神と精霊』. 新紀元社
池上 良太(2014). 『図解 ケルト神話』. 新紀元社
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
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更新履歴
2024/07/13 初稿
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