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【SH考察:075】Moira登場人物のうちギリシャ神話に登場する人物からの引用
Sound HorizonのMoira(およびその派生曲)には、現実のギリシャ神話に登場する名前をもつ人物が登場する。
そこで、元ネタの人物と照らし合わせて共通点・相違点を探った。
対象
6th Story Moiraより『運命の双子 -Διδυμοι-』『雷神域の英雄 -Λεωντιυς-』
9th Story Neinより『愛という名の咎』
考察
現実に残るギリシャ神話に登場する"人"
Moira作中には人物や神の名が大量に登場する。
そのうち、神の名は海や風など自然や現象の名詞がそのまま神の名としてあてがわれているケースが多い。
そして、ギリシャ神話の(特に初期の)神は、自然を神格化したことによって、やはり神の名が自然現象の名そのものになっているケースが多々ある。
例えば海の女神タラッサ(Θάλασσα)、夜の女神ニュクス(Νύξ)、闇の神エレボス(Ἔρεβος)など。
そのため神の名については正直キリがないため、今回は人間に絞って触れていく。
(厳密に言うと、親が片方神である半神半人もいるのだが、100%純粋な神ではない人という意味合いで"人"に絞る)
アキレウス
![](https://assets.st-note.com/img/1700134624753-prBwcmpahH.png)
陶器にトロイア戦争中の様子を描いたもの
出典:Jona Lendering, CC0, via Wikimedia Commons
「うっ…俺はもう駄目だ…!後は頼んだぞ…!足速きアキレウス…!」
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
『愛という名の咎』で登場。
場面からして、おそらく改竄前にあたる『死せる乙女その手には水月 -Παρθενος-』のときにもいたと思うのだが、こちらではミーシャが素直に従ったためスコルピオスの部下が奔走する必要がなく、アキレウス含め部下が誰も喋らない。そのため存在が確認できない。
アキレウスには「足速き」という添え名(あだ名)があるが、これは史実に基づくものだ。
史実上のアキレウスは、紀元前8世紀の吟遊詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』の主人公。アキレス腱の名の由来になった男だ。
リズムの良い叙事詩にする兼ね合いで、頻繁に「駿足の」とか「足速き」という言葉が添えられたため、現代でも定着している。
アキレウスが生まれた時、母親が彼を不死の存在にするために、ステュクス川に彼を浸した。
この川は冥府を通っており、その水に浸されることで不死となるとされていたからだ。
しかし、この時母親は彼のかかとを掴んで浸したため、かかとだけが水に浸らず弱点となった。
![](https://assets.st-note.com/img/1700135041092-8oyB60IGw1.png)
女神ティティスが息子であるアキレウスをステュクス川に浸し、不死にしようとしている。
ただこのようにかかとを掴んで浸したためかかとだけ浸らず、かかとが弱点になった。
ティティスの傍には、渡し船を漕ぐカロンがいる。
出典:Peter Paul Rubens, Public domain, via Wikimedia Commons
その結果、彼はトロイア戦争でかかとを射られたことが原因で死んでしまう。
かかとの腱をアキレス腱と呼ぶのはこの逸話に基づいているためだ。
テウクロス
![](https://assets.st-note.com/img/1700135427974-NdzKqXsDrI.png)
出典:Wikipedia Loves Art participant "yokim", CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons
「くそっ!しっかりしろ!!テウクロスー!」
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
弓術の名手。アキレウス同様にトロイア戦争に参加した男。
戦争中に石を投げられて弓の弦を断たれたという逸話があるため、エレフに石を投げられて倒れたのはそのシーンのオマージュかもしれない。
カストル&ポリュデウケス
「殿下、立派な兄君にお成りなさいませ」
「兄上!陛下が件の神託の件でお呼びです」
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
※前者がポリュデウケス、後者がカストル
「探したぞ、ポリュデウケス…」
「スコルピオス殿下!?」
「アルカディアの双璧と謳われた勇者がこんな山奥で隠遁生活とは…貴様、何故剣を捨てた?」
※Διδυμοιの意味は「双子」
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
ギリシャ神話ではスパルタ王妃レダの双子の息子。
兄がカストルで弟がポリュデウケスなので、Moiraとは兄弟の順序が逆。
双子だが彼らの父親は異なっており、ポリュデウケスの父親は神ゼウスで、カストルの父親はスパルタ王テュンダレオス。
現代でも「スパルタ教育」というと厳しい教育方針のイメージを持つと思うが、古代ギリシャの都市国家スパルタはまさにそのような感じで、厳しい環境で戦士の訓練を重ねていた。
スパルタは城壁を持たないという珍しい都市国家。
城壁が無ければ当然敵に侵入されやすそうだが、「俺達という戦士の壁があるから問題ない」というスーパー脳筋思想の国だったため、スパルタの男達は戦士としての厳しい訓練を科されていた。
ポリュデウケスとカストル兄弟もスパルタの戦士だったため、厳しい訓練に耐え抜いていたはず。
彼らはふたご座のモデルでもあり、ふたご座というとこのようなかわいらしいイラストで描かれることも多いが、実際のこの双子はおそらくムキムキでイカツイ戦士だった可能性が高い。
![](https://assets.st-note.com/img/1700136260815-MGvnSn8uCw.png)
ちなみに、Moira作中のポリュデウケスの妻の名前はデルフィナか?
「デルフィナ!子供達を連れて逃げなさい!」
「エレフ、ミーシャ!こっちよ!」
※Διδυμοιの意味は「双子」
※書き起こしのため誤差がある可能性あり
私には「デルフィナ!」と呼び掛けているように聞こえたが、単に「敵だ!」と言ったのかもしれない。
デルフィナだとしてもギリシャ人の名前としてはおかしくないはず。デルフォイという有名な地名があり、そこから由来する名前だからだ。
ちなみにギリシャ神話のポリュデウケスの妻はフィーベ?ポイべ?という。
(読み方が正確にわからなくて申し訳ない。綴りはΦοίβη)
彼女はメッセニアの王女。
彼女と妹ヒラエラは、元々同じメッセニアの王子兄弟と婚約していたが、カストル&ポリュデウケスが一目惚れして誘拐した。強引。
![](https://assets.st-note.com/img/1700215046006-qNy6qYdfK0.png?width=800)
スパルタ(Sparta)は画像中央のエウロタス川(Eurotas)周辺のそばにあった都市国家。
地域で言うとラコニア(LAKONIEN)にあった。
メッセニア(MSESSENIEN)はラコニアの西側の地域。
出典:derivative work: Timmerma (talk)Peloponnese_relief_map-de.png: Pitichinaccio, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
このあたりはだいぶMoiraと異なるが、そんなことを言い出すと、そもそもギリシャ神話のカストル&ポリュデウケスはスパルタ出身で、スパルタがあるのはラコニア地方だ。
Moiraのようにアルカディアで王家の家臣となっている点も、兄弟の順序も何もかもギリシャ神話とはまるで合っていないため、本当に名前だけ借りたと考えるほうが良さそうだ。
結論
Moiraの登場人物のうち4人は、現実に残るギリシャ神話の登場人物から名を拝借したようだ。
アキレウスとテウクロスはわりと神話の人物像そのままだが、ポリュデウケスとカストル双子兄弟はだいぶ設定が変わっている。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2024/01/27 初稿
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