【SH考察:007】Moira作中の時系列
Sound HorizonのStory CD(アルバム)の中で、特にMoiraは全体を通して時系列がわかりやすい。改めて時系列を整理してみた。
対象曲
6th Story Moira
考察
舞台
大雑把に言うとバルカン半島やアナトリア半島あたりの地域。
サンホラの中でも群を抜いて古い時代を扱っており、ざっくり見ても時代背景は紀元前。
曲中の情報から、ざっくりと地理イメージを図に起こした。
地理については別途こちらでもまとめているので、もしよろしければご一読ください。
1. 王と妾との間にスコルピウス誕生
スコルピウスは「蠍」とも称される男。ジャケ絵で赤い長髪を三つ編みにして、くるりと上にあがっている姿がまるで蠍のしっぽだ。
生まれはアルカディアのようだが、隣国ラコニアを掌握し世界の王になることをたくらむ男。それが彼だ。
彼がすんなりアルカディアの王位につけなかった主要因は、彼のセリフからわかる。彼の出自だ。
具体的には妾の子であること、そして「雷神の血」を引いていないことだ。
まず妾について。妾とは簡単に言えば愛人のこと。妻のいる男が妻以外に囲い、経済的にも援助する相手のことを妾という。
要するにスコルピウスは王と王妃(正妻)の間に生まれた子ではなかったため、王位継承順位が低くなっていたか、継承権すらなかったかもしれない。
次に「雷神の血」を引いていないこと。
「ブロンディスに連なる血」がそれのことだ。アルカディアは雷神域、雷神ブロンディスの加護がある国だ。
そして血筋のことをコンプレックスに思っている時点で、アルカディアにとって血族的に重要なのが王ではなく王妃であることもわかる。
もし王が雷神の血を引いていたら、スコルピウスのコンプレックスは妾腹(妾の子)であることのみで、血については触れなくていいはずだ。
しかし血についても触れているということは、王の子であっても「雷神の血」を引く子ではない場合があるということ。
よって、妾の子であるから雷神の血を引いていない、つまり雷神の血を引くのは王妃のほうである、と推測できる。
ちなみに、この「王」がレオーンティウスの父なのか、さらにその前の王なのか、つまりスコルピウスがレオーンティウスから見て異母兄なのか伯父なのかまでは特定できない。
レオーンティウスの兄だから、血や母親が誰かを気にしなければ王になれるのに、という意味で「レオーンティウス、貴様さえ生まれてこなければ…!」なのかもしれないし、現王の兄弟だから、でも意味的には通じる。
個人的には声が渋いおじさまだし、レオーンティウスが「第一」王子なので、異母兄ではなくおじなのでは?という気がする。
ただ、スコルピウスの後に王妃(正妻)の子、かつ雷神の血を引くレオーンティウスが生まれたため、レオーンティウスが王位継承一位となり、スコルピウスがコンプレックス爆発権力執着丸出し男になったのではないかと思われる。
2. 王デメトリオスと王妃イサベラの間に、レオーンティウス誕生
雷神の血を引くレオーンティウスは、第一王子となる。
3. 王デメトリオスと王妃イサベラの間に、双子エレフセウスとアルテミシアが誕生
エレフセウス(エレフ)とアルテミシア(ミーシャ)の誕生。二人は雷神の血を引くレオンの弟妹。
しかし、無慈悲な神託があった。
神託とは神のお告げのこと。
これは意訳すると、日蝕の日に生まれた子が破滅を呼ぶ、ということだ。
これを気にしてイサドラが嘆いていることから、双子が日蝕の日に生まれ、この神託がこの双子に対するものだとわかる。
4. ポリュデウケスがエレフとミーシャを引き取る
だがここで家臣の一人、ポリュデウケスが機転を利かせる。いや、機転どころか壮大な決心を固める。
彼は双子を自分の子として育て、かつ剣を捨て、王から離れて隠居生活を選ぶのだ。
ポリュデウスは弟カストルとともに王家に仕えていたらしい。
ちなみに名前の由来は、ギリシャ神話に登場する双子。
(ただし神話ではポリュデウケスのほうが弟)
ふたご座に含まれる恒星にも彼らの名前が使われている。
5. スコルピウスが山奥で隠居するポリュデウケスの家を襲撃
双子がまだ幼いある日、スコルピウスが襲撃。
スコルピウスはこの時点で隣国ラコニアを掌握。さら武力を得ようとポリュデウケスを取り込もうとしたが、断られた。
そのためスコルピウスはポリュデウケス(と、おそらく妻デルフィナも)を殺害。
なお、ラコニアはアルカディアのすぐ南に位置している。
そのため、ラコニアを掌握することで、スコルピウスは南から北上する形でアルカディアの征服を企んでいたと推測できる。
ちなみに、現実にあるギリシャ神話に登場するポリュデウケス(とカストル)はスパルタ王妃の子。
そしてスパルタはラコニア地方にあった都市国家。
Moiraの世界でこの設定がどれほど踏襲されたかは謎だが、この世界のポリュデウケスもスパルタ(ラコニア地方)出身であれば、スコルピウスがポリュデウケスに目を付けるのは理解ができる気がする。
6. エレフとミーシャが奴隷として売られる
二人はスコルピウスからは逃げたものの、親(実際には養父母)を失ったことで家も後ろ盾も失い、奴隷市場に売られる。
ここでエレフは、風神アネモス眷属の王国アナトリアの都、イーリオンの城壁を作るための奴隷として、ミーシャは高級娼婦の見習いとして、別々の場所に売り飛ばされる。
7. イーリオンでエレフの能力が開花
アナトリアはギリシャの東側に位置しており、北からも東からも異民族の攻撃が苛烈だったため、難攻不落の城壁を築こうとしていた。そのための労働力としてエレフは買われたのだ。
ただ労働環境は劣悪で、死んでいく奴隷仲間もいた。
そのような環境下で、エレフの特殊能力が開花する。
その能力とは「影」が見えること。
その「影」のある人間は間もなく死ぬということにも気づいており、要するにもうすぐ死ぬ人間が分かる能力を得たのだ。
8. エレフがミーシャを救出
一方で高級娼婦見習いとなったミーシャ。
そして偶然にも、イーリオンの神官ネストルに買われ、まさに襲われそうになった瞬間にエレフが救出。神官に傷を負わせてミーシャを救ったのだ。
ここで久しぶりに再会した双子がそのまま脱走する。
9. エレフとミーシャとオリオンで脱走するが海で遭難する
エレフとミーシャ、それからエレフの奴隷仲間だったオリオンという、子ども三人組で脱走。
追いかけてくる者はオリオンの弓術で追い払った。ここでオリオンが弓術が得意であることがわかる。
だが、エレフが神官を傷つけたことは、神からは「神域を穢した」ととらえられた。
それにより風神アネモスは怒り、その怒りが雨女神ブロシュと結ばれ、つまり風と雨が合わさって嵐が発生。
この嵐により、エレフとミーシャ、そしてオリオンは再び離れ離れになってしまった。
ここからは三者三様の人生を送るため、主にエレフ、ミーシャの順で、二人がまた同じ土地に降り立つまでを追う。
10. エレフ:暗誦詩人ミロスに弟子入りし、ともに旅をする
嵐でエーゲ海に投げ出された三人のうちエレフは、ミロスと知り合い、弟子入り。ミーシャを探して旅をする。
11. エレフ:故郷アルカディアに戻り、両親の死を知る
誰が建てたか不明だが、ポリュデウケスとデルフィナ、つまりエレフの親(実際には養父母)の墓標を見つける。
12. エレフ:ミロスと別れて一人旅を始める
ミロスは雷神殿に向かうと言い、ここでエレフとミロスは分かれる。
ここでミロスが困ったときにはレスボス島を頼ること、またその場合は危険なトラキアやマケドニアを避けて海路を通るようにアドバイスする。
トラキアとマケドニアは北側の国なので、ざっくり海を渡って南側を通って行けということだ。
エレフはこのアドバイスに従って、海路を通ってレスボス島を目指す。
この頃には既にエレフは大きくなり、大人になっていることから、ミーシャと別れて随分の月日を旅していた様子。
13. エレフ:オリオンの噂を聞く
旅の過程で、オリオンがアナトリアの武術大会で、弓術で優勝したことを知る。
アナトリアは彼らが奴隷として働いていたイーリオンがある東側の国。
そこで、「何と蝕まれし日の忌み子だからって捨てられた王子様だったらしいぞ」という噂が流れている。
これ自体はこれまでの経緯でわかる通り、嘘である。
ただ「忌み子だから捨てられた王子」が存在することは正しい。それはエレフのことだ。
どういうわけか「忌み子だから捨てられた王子」がいるという事実がバレて噂として流れているところで、目立つ英雄が現れ結び付けられたようだ。
14. ミーシャ:レスボス島に流れ着く
一方ミーシャは、遭難後イリオンから比較的近いレスボス島に流れ着く。
レスボス島には詩人ソフィアがおり、彼女はミーシャの特殊能力を見抜く。
エレフに死の影が見えるという能力が芽生えたように、ミーシャにもまた能力が芽生える。それは神託を見るというか聞くというか、ざっくりいうと未来予知能力である。
これはのちに悲しい形で発揮される。
ソフィアの口添えで、ミーシャは巫女として、星女神の神殿に仕えることとなる。
エレフと異なり、ミーシャはこれ以降ずっと巫女として過ごすため、このままここで大人になる。
15. 東方防衛同盟vs女傑舞台の戦いが激化
エレフとミーシャがそれぞれ成長するのはいったん置いておいて、ギリシャ全土の話。
北から女傑、つまり女だけの一族アマゾンが攻め入っていた。
アマゾンはギリシャ神話にも登場する部族で、ざっくりいうとギリシャの北東側から攻め入っていた。
そのため、ギリシャ東側、アナトリアは北からも東からも異民族とせめぎ合っている状態だったため、難攻不落の城壁が必要だったのだ。
レオーンティウスがいるアルカディアは南西の国で位置的には真逆、エーゲ海を挟んでおりわりと安全そうな地域だが、東方防衛同盟に参加。
アマゾンと戦っていた。
そこでレオーンティウスは女王アレクサンドラを追い詰める。しかし彼は女を殺さない主義で、彼女を見逃す。
彼女はそのやりとりでレオンティウスを気に入った様子。
16. ミーシャ:自分の死を悟る
ミーシャは以下の内容を悟る。
オリオンは星女神から弓矢(の能力?)を授かる
レオーンティウスが嘆く(これがイマイチよくわからない)
エレフとミーシャの運命が揺らいでいる
ミーシャ自身は死ぬ
17. ミーシャ:スコルピオスに生贄として殺される
スコルピオスが神殿を襲撃し、ミーシャをとらえる。
そしてヒュドラへの生贄として斬り殺す。ヒュドラはラコニアを眷属とする水神の名前。
ちなみに、ミーシャは殺される直前、スコルピウスの声を聞くまでスコルピウスだと(というか、幼いころ家に襲撃してきた男だと)気づいていなかった様子。
スコルピウスの容姿が激変した片鱗はないため、ミーシャの視力に問題があるか(ちなみにコンサートでは遭難で視力を失ったような演技になっていた)、単純に年月が経っているためスコルピオスの姿を覚えていなかったと思われる。
18. 生きたエレフと死んだミーシャの再会
エレフはレスボス島に辿りついたが、間に合わなかった。
ミーシャは既に亡くなった後だった。
ふたりはイーリオンを脱走し、遭難した後は、一度も言葉を交わせぬまま永遠の別れとなってしまったのだ。
なお、ミーシャは星女神の巫女だった。そのミーシャが殺されたことで、星女神は神域を穢されたとブチギレ。スコルピウスに罰を与えるために、オリオンを利用する。
19. エレフが復讐を決意、奴隷を集め始める
エレフが奴隷部隊を結成し始める。
彼はその紫色の眼から、アメティストスと呼ばれるようになる。
紫色の宝石アメジストのギリシャ語がアメティストス。
(ちなみに、厳密にはむしろアメティストスが語源で、転じてアメジストになっており、エレフをアメティストスと呼ぶのは由来と語源が逆になっている)
20. エレフが異民族の国へ奔る
この異民族は敢えて「鉄器の国」であることが明記されているため、武器武具の確保が目的ではないかと推測。
ギリシャに復讐したいエレフには必要な勢力である。
そして異民族は異民族で、領土拡大のためにもともとギリシャに攻め入ろうとしているため、エレフと異民族とで利害が一致している。
21. オリオンが「傀儡と化した王」を弓矢で殺害
この辺りがすべてナレーションでサラッと紹介されているため、いろいろと詳細やつじつまが不明瞭。
おそらく「傀儡と化した王」はラコニア王。
ラコニアはスコルピオスに掌握されているため、王はスコルピウスの操り人形と化したと想定。
巫女を殺されてブチギレた星女神がオリオンを派遣した結果、オリオンがラコニアを弱体化させようとした、もしくはヒュドラの血を引く者に制裁を加えようとしたのではないかという点で、まぁ理解はできる。
(直接スコルピウスを狙えばいいとは思うが)
22. スコルピウスがオリオンを殺害
しかしオリオンはスコルピウスに殺される。
23. レオーンティウスがスコルピオスを殺害
そしてスコルピウスはレオーンティウスに粛清される。
スコルピウスは場をかき乱しまくったが、あっさりナレ死している。
24. エレフが東からイリオンを攻め落とす
奴隷部隊を率いるエレフが東から戻り、アナトリアを襲撃。
奴隷として城壁を築いていた頃以来久しぶりに都イーリオンへやってくる。
この時部下としてシリウスとオルフを引き連れている。
25. レオンティウスがイリオンへ向かう
エレフがイーリオンを落としたことがレオーンティウスに伝えられる。
レオーンティウスは前述の通り東方防衛同盟を組んでいるため、イーリオンを守るために反撃、加勢を決める。
だが相変わらず北からは女傑アマゾンが、東からは異民族も攻めてきているため、兵力を分散させている。
具体的には自身の部下3人を分担させている。
3人のうちレグルスは異民族、ゾスマはアマゾン、そしてカストルはイーリオンへ同行させた。
なお、レグルスとゾスマはしし座の中にある星の名前。
カストルはふたご座の中にある星。ポリュデウケスとは双子の兄弟である。
26. エレフとレオーンティウスが対峙
イーリオンでとうとう二人は対峙。
エレフは黒き剣、レオーンティウスは雷槍で戦うが互角で決着がつかず。
27. エレフがイサドラとレオーンティウスにとどめを刺す
この辺りはコンサート演出が納得感のある流れな気がする。
この結末には二つの神託が影響している。
コンサート演出では、エレフはレオンの雷槍を奪い、その雷槍を投げる。
その雷槍がレオンティウスと、レオンティウスを庇おうとした母イサドラもろともを貫き、二人は死ぬ。
(厳密には雷そのものも落ちていたが)
つまり、前者の神託は「雷を制す者」=雷神の加護を受けた槍、雷槍を制す者=最終的に雷槍を手に入れた者、と受け取ると、エレフを意味する。
そして後者は前にもふれたように、エレフ(とミーシャ)の誕生の際に出た神託だ。
二つの神託を併せると、エレフが破滅を紡ぐし世界を統べる王になるという、だいぶ凄まじいことを言っている。
ちなみにしれっとこのとき、アマゾン女王アレクサンドラも死んでいるのだが、死因がよくわからない。
28. 死人戦争が始まる
「或る男」が誰なのかは明言されていないが、ともかくその男の手によって神話が終わる。
「冥府の扉を開く」のは短絡的にとらえると、その「或る男」が死んだということだろう。
これは、「或る男」の死によって神話と言えるような過去の話が終わり、死人=死せる者=神ではなく人間の人間らしい戦争が始まったととらえる。
これまでの争いは雷神やら星女神やら、神の力の介入があったような書きぶりだったが、それが終わり、人間と人間の間の憎しみや恨みに起因する争いになったのではないだろうか。
―――
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/04/12
初稿
2023/04/25
微修正、サムネイル変更
2023/05/02
歌詞引用元表記修正
2023/07/09
5. スコルピオスが山奥で隠居するポリュデウケスの家を襲撃 追記
2024/03/04
全体的に加筆修正、誤字修正
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
2024/05/07
誤植や表記揺れ等修正
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