【SH考察:111】アーサー王伝説によるChronicle 2ndの騎士道物語らしさの付加
Sound HorizonのChronicle 2ndで、複数曲に渡ってアルヴァレスを取り巻く騎士道物語が描かれる。
この物語に登場する人物などの名称は、現実に伝わるアーサー王伝説由来であると考えられる。
そのため今回はアーサー王伝説との関連性を確認する。
対象
1st Renewal Story Chronicle 2ndより『薔薇の騎士団』『聖戦と死神 第1部「銀色の死神」~戦場を駈ける者~』『聖戦と死神 第2部「聖戦と死神」~英雄の不在~』『聖戦と死神 第3部「薔薇と死神」~歴史を紡ぐ者~』『聖戦と死神 第4部「黒色の死神」~英雄の帰郷~』
考察
アーサー王伝説とは
アーサー王を中心として創られた物語のまとまりのこと。騎士道物語(騎士道の規範にまつわる物語)と呼ばれるジャンルに属する。
RPGでおなじみのエクスカリバーは、このアーサー王が正当な継承者だから岩から引き抜けたとされる剣のことだ。
一人の作家が単独で書き上げたものではなく、長い年月をかけて複数人の作家が各自の解釈でまとめたものの総称だ。15世紀にトマス・マロリーがまとめた『アーサー王の死』が最も有名なアーサー王伝説の物語だ。
アーサー王伝説にはもちろんアーサー王以外にも様々な人物が登場する。その中に、Chronicle 2ndにも登場する名前や、似た設定を持つ人物がみられる。具体的には下記。
アヴァロン(Avalon)
パーシファル(Parsifal)
トリストラム(Tristram)
ギネ/ギネヴィア(Guine)
フランスからやって来た騎士
アヴァロン(Avalon)
Chronicle 2ndではブリタニア王国を治める王族の姓として使われている。主要人物であるローザを輩出した王族の姓だ。
アーサー王伝説では島の名前として登場する。現実には無い架空の島だ。重傷を負ったアーサー王が運ばれ、亡くなったとされる地だ。
パーシファル(Parsifal)
Chronicle 2ndに登場する騎士の一人の名前だ。ブリタニア王国第四騎士団長で、槍を扱うことがわかっている。
アーサー王伝説では円卓の騎士のひとりとして知られている。パーシヴァルと濁る発音になる場合も多い。
彼の母は彼を騎士にしたくなかったため、騎士とは無縁の生活環境に身を置いていた。しかしある時彼はたまたま騎士と出会って感銘を受け、アーサー王のもとで騎士なると決め円卓の騎士に仲間入りした。
トリストラム(Tristram)
Chronicle 2ndでは1回のみ登場する人物。ブリタニア王国第六騎士団長であることしかわかっていない。
アーサー王伝説では、前述のパーシファルと同じく円卓の騎士のひとりとして知られている。トリスタンという名のほうが知名度が高いかもしれない。
『トリスタンとイゾルデ』という物語が有名。トリスタンは王の命で、王の結婚相手として選ばれたアイルランドの王女イゾルデの迎えに行く。しかし道中トリスタンとイゾルデが恋に落ちて関係を持ってしまう。最終的にイゾルデを王に譲り、自分は国から去って、イゾルデと同じ名前の別人の女性と結婚する。
アーサー王も妻と不倫相手という三角関係が出てくるのだが、トリスタンもまた三角関係に悩まされた人だ。
ギネ/ギネヴィア(Guine/Guinevere)
「ギネ」はChronicle 2ndではローザのミドルネームだ。
「Guine/ギネ」そのものではなく「Guinevere/ギネヴィア」という名の前半部分という形ではあるが、この特徴的な綴りがアーサー王伝説でも確認できる。
ギネヴィアはアーサー王の妻、つまり王妃の名前だ。円卓の騎士の一人ランスロットと不倫した話が有名だ。
彼女の方がランスロットに一目惚れし不倫関係に発展。
初期の作品であるほど裏切りやふしだらさ、嫉妬心といった彼女の悪の面を強調して描かれ、時代が進むにすれキャラクター性に深みを持たせるために気高さや聡明さも加え、善悪両面が描かれるようになった。
クロセカのローザは気高く勇気があり、なおかつ親しみやすさも兼ね揃えているといった良い面が強く描かれている。明らかにギネヴィアとはキャラクター性が異なる。
なによりギネヴィアは女王ではなく王妃で、前述の不倫話の後さらにアーサー王からの王位簒奪を狙うモルドレッド(アーサー王の甥)からの承諾するといった日和見主義なところも見られる。
女王として君臨し戦場の前線にも立ったローザとは明らかに異なる。
フランスからやって来た騎士
アーサー王伝説というとケルト文化と強く紐づくイギリスの話という印象が強い。しかし円卓の騎士のひとりランスロットはフランスから来た騎士だ。
ブリテン島でケルト神話を継承していたブリトン人が6世紀はじめにサクソン人から襲撃を受けた際、一部が海を越え南に逃げフランス最西端のブルターニュに移住した。
この影響でアーサー王伝説がフランス流に発展。フランス生まれの騎士ランスロットが円卓の騎士に加わるというストーリーが生まれた。
前述の通り、ランスロットはアーサー王の妻ギネヴィアに惚れて不倫相手となっている。
Chronicle 2ndでランスロットそのものにあてはまるキャラクターはいない。ただしアルヴァレスはベルガ(ベルギー)人であるもののフランドル(フランス)の捕虜となり、フランドルの騎士・将軍としてブリタニア(イギリス)に攻め入る。そこで女王ローザの人柄に惚れて亡命を決める。
大雑把ではあるものの、フランスから来て「ギネ(ヴィア)」(の人柄)に惚れる騎士という位置づけで近いと言えなくもない。
結論
Chronicle 2ndのブリタニア王国にまつわる地名や人物名は、明らかにその一部をアーサー王伝説から拝借している。
アルベール・アルヴァレスにまつわる一連の曲は騎士道物語と言えるだろう。騎士としての責務に身を投じ様々な地を巡って戦いながら、彼個人の心には常に愛しいシャルロッテがいた。
この騎士としての規範と戦いと恋愛という一連の描写は、まさに騎士道物語だ。
騎士道らしさの演出としてアーサー王伝説由来の名前をちりばめるのは粋な演出だろう。ちなみにアルヴァレスはベルガ(ベルギー)人であるためか、アーサー王伝説由来の名ではない。
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サムネイル:
N.C.ワイエスによる『少年のためのアーサー王物語』の挿絵 1922年
N. C. Wyeth, Public domain, via Wikimedia Commons
参考文献:
かみゆ歴史編集部(2019). 「ゼロからわかるケルト神話とアーサー王伝説」. イースト・プレス
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更新履歴
2024/10/05 初稿