【SH考察:057】『11文字の伝言』と『冬の伝言』は対応してないのでは?
Sound Horizonの2009年の生誕祭で、『冬の伝言』はとても感動的な演出に思えた。まるで直前の『11文字の伝言』の母親へのアンサーソングかのようだった。
しかし、歌詞をよく見るとこの2つの曲は対応関係にない。
そこで今回は、そう判断した理由と、イヴェールが母親だと思った相手が誰なのかについてまとめた。
対象
5th Story Romanより『11文字の伝言』
ライブ限定曲『冬の伝言』
考察
伝言を遺した母
名前も年齢も容姿も不明。生きていた時代も家庭環境も不明。
ただ、子を産んだ母親であると言うことだけがわかっている。
重要なのは経産婦という点、かつ過去形で語っている点だ。
彼女は、生きてこれから成長する子を遺して、ひとり死んで往く直前であるということが、言葉の節々からわかる。
冬の伝言
ライブ限定曲。手元で聴く方法は、現状は第三次領土拡大遠征凱旋記念 国王生誕祭 2009.06.26に収録された映像のみ。
この時の演出は非常に印象的で、『11文字の伝言』の後イヴェールが現れ、RIKKIを抱きしめる。
そしてそのまま『冬の伝言』を歌い始めるのだ。
RIKKI(が演じる母親)とイヴェールは一度も目が合わない。死者と生者が傍にいても目が合わない演出は他の地平線でもあった。
一見、この母親の伝言を聞いた上でのアンサーソングに見える。
しかしそうすると『冬の伝言』の内容は辻褄が合わなくなる。
「産もうとしてくれた」は言い換えるとチャンレジはしたが上手くいかなかった、産むことは出来なかったように聞こえる。
無事に生まれたのであれば「産んでくれたこと」と言うだろう。
つまり『11文字の伝言』では母親が無事に生まれた子に対して伝言を遺しているのに対し、『冬の伝言』は死んだ子が母親に対して感謝を伝えようとしている。よって、この母と子は親子関係が成立しない。
すれ違う母と子
仮に『11文字の伝言』の母親が二人以上の子の出産経験があり、うち一人が死産だったとしよう。
だがそれでも不自然だ。もし『11文字の伝言』に、先に死んだ子にこれから会いに行くといった意味合いの言葉が入っていれば、イヴェールへの伝言として聞けるし、『冬の伝言』として応えるのもわかる。
しかし、実際にはそのような意味合いの言葉は一切ない。
『11文字の伝言』はあくまで、生きて遺される子だけを見ている。
イヴェールが母親だと思った相手
ここまでの検証で、イヴェールを産もうとした母親は『11文字の伝言』を遺した母親ではない可能性が高くなった。
では、自分を産もうとした母親であるとイヴェールが認識した女性は誰か。
(あえて単に「イヴェールを産んだ母親は誰か」とは表現しない。その理由は後程述べる)
これは『焔』で葬式を行っていた母親だろう。
遺体に双子人形を添えている。
小さな棺、そして「生まれぬ君」ということは、遺体は死産した子だろう。
NeinでR.E.V.O.に改変された世界である『涙では消せない焔』でも、産まなかった子のことをイヴェールと呼んでいる。
この母親は、伝言という認識では言葉を残したり贈ったりはしていない。
ただ、詩は贈っている。
死産した子のために双子人形と、詩という形で言葉を贈る。
それを贈られた側が伝言ととらえても、まぁおかしくはないだろう。イヴェールの状況的にも合っている。
双子人形がこの物語をいつイヴェールに伝えたかは定かでないが、第5の地平線の中で『焔』は『朝と夜の物語』の直後の曲だ。
一見わりとすぐに、イヴェールとしては自分が生まれる前に死ぬに至る物語を知ったように見える。
イヴェールの本当の「母親」
だが、イヴェールをイヴェールとして直接的に呼び起こした?召喚した?生み出した?のは、他でもないMichèle Malebrancheだ。
彼女は貴婦人と呼べる年齢だったにもかかわらず、老婆の姿で死んだ。
その際13人の少年を犠牲にして、彼らが折り重なった下に彼女の遺体があるという異様な光景だった。
『屋根裏物語』では、その様子を連想させる語りの後、ミシェルらしき女性の高笑い、そしてイヴェールを産み出す?声が聴こえる。
13人の少年を生贄にして(もしくはさらにミシェル自身の命と若さも生贄にして?)イヴェールが誕生したように見える。
一般的な出産とは明らかに異なりすぎる形であるため、ミシェルは生物学的な母親ではないだろうが、イヴェールの誕生に直接関与した女性という意味では最も母親の位置づけに近い。
結論
『11文字の伝言』と『冬の伝言』は、曲名・演出・雰囲気から一見対応関係がありそうに見えた。
しかし実際歌詞を見ると、『11文字の伝言』の母親と彼女が言う息子像、『冬の伝言』でのイヴェールとその母親像がマッチしない。
『冬の伝言』で母親としたのは『焔』の女性のほうが整合性がとれる。
ただし、そもそもイヴェールを直接的に産み出したのはミシェルである可能性が高い。結局イヴェールがミシェルの存在を知らないだけで、イヴェールの思う母親っぽい像にたまたまマッチした女性に愛着を持ってしまっただけかもしれない……。
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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。
更新履歴
2023/09/12
初稿
2023/11/04
誤字修正
2024/04/24
一部歌詞引用について「※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり」の注釈追記
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