【SH考察:100】イベリアの黒の勇者と白の聖騎士はどんな人物か?
Sound Horizonの『侵略する者される者』という曲で、勇者イスハークと聖騎士ラミレスという人物が登場する。この二人についてはそれ以外の情報が全くなく、ジャケ絵にもいないため、どのような人物か謎に包まれている。
今回はその少ない情報をもとに史実と照らし合わせながら、二人の人物像のイメージを膨らませてみた。
対象
Story Maxi 聖戦のイベリアより『侵略する者される者』
考察
ふたりの戦士
勇者イスハークと聖騎士ラミレスは、二人とも『侵略する者される者』で唐突に1度ずつ名前が登場し、他で一切情報がない人物だ。
歌詞の文脈上、アルハンブラ宮殿さえ陥落させることができればレコンキスタが完了し、キリスト教勢力がイベリア半島を取り戻せるという段階まできていることから、当時イベリア半島でせめぎ合っていたイスラム勢力のナスル朝とキリスト教勢力のアラゴン・カスティーリャ連合のそれぞれに在籍していた人物なのだろうと予想ができる。
ただしいくら調べても、その時期の実在の人物でイスハークとラミレスという名前に一致するそれらしき人物がいない。
(時代をズラせばイスハークもラミレスも王族の中に居る)
そのため完全にゼロから創作された人物である可能性も十分ありうるが、過去の史実から要素を少しずつ取り入れて創られた人物である可能性もまた考えられる。
勇者イスハーク
まず先に登場した勇者イスハークの方から見てみよう。
こちらはイスラム勢力だ。イスハークという名前はアラブ諸国(アラビア語を話す地域、イスラム教圏とかなり重なる)で見られる名または姓だが、後述するラミレスが姓なので、イスハークも姓だろう。
ただこのイスラム勢力を代表する立場として出す名前としては、少しだけだが違和感がある。
このイスハークは旧約聖書の創世記に登場するイサクという人物に由来する名前なのだが、この場面で象徴的に名前を出すならば、イサクよりもイシュマエル(アラビア語ではイスマーイール)のほうがしっくりくるような気がする。
というのも、イサクとイシュマエルはどちらもアブラハムの子(イシュマエルが兄、イサクが弟の異母兄弟)だが、弟イサクの子孫がユダヤ人であり、イエス・キリストに繋がり、兄イシュマエルの子孫がアラブ人であるとされている。
そのため、このような場面で創作人物の名前を出すならば、アラブ人の祖イシュマエルのアラビア語型イスマーイールにする方が納得感がある。
イスハークには、より正当性のある兄を押しのけて実力でのし上がった野心家の弟、みたいなキャラクター設定がされているのだろうか…など想像が膨らむ。
なお、イスラム教でもイサクは重要な人物として見られているため、イサクの名に由来する名前をつけたり、その名の人物が珍重されること自体はまったくおかしくない。
またこれは聖戦のイベリア全体に言えることだが、日本語表記と英語ナレーションで表現が異なり、両者を照らし合わせると得られる情報が増える。
たとえば「黒の軍」はblack(黒)ではなくiron(鉄)で表されている。
これはイスラム教の聖典コーランで、鉄が重要視されていることから来ているのだろうか。
コーランの中に「鉄」という名前の章があり、神が鉄を地上に下したという旨の表現がある。神からもたらされた重要な物質を身にまとって戦う英雄という位置づけかもしれない。
聖騎士ラミレス
次に聖騎士ラミレスを見てみよう。
ラミレスはスペイン語の姓で、「ラミロの息子」という意味。
「ラミロ」かつ「白」というワードで、ひとつ思い浮かぶ出来事がある。半分史実で半分伝説の話だ。
842年に即位したアストゥリアス王ラミロ1世は、あるときイスラム軍に囲まれて窮地に陥る。
しかし逃げ込んだ城の中で「戦いの中突然聖ヤコブが白馬に乗って現れキリスト軍を勝利に導く」という夢を見る。
翌朝臣下にそのことを話しているときに聖ヤコブが白馬に乗って現れ、彼らは勝利することができた、という話だ。
(聖ヤコブはイエス・キリストの使徒のひとり)
勝利は本当、聖ヤコブの話は伝説だろうが、レコンキスタを進める中でキリスト教側を鼓舞するには良いエピソードだっただろう。
イベリア半島のイスラム勢力最後のナスル朝陥落・レコンキスタ完遂の1492年から見て600年ほど前の話であるため、聖騎士ラミレスとは時代が合わない。
ただ名前とキャラクターイメージの参考情報くらいにはなったかもしれない。
結論
イスハークもラミレスも、実際の歴史上の人物の中ではそのものズバリな人物は見つからなかった。
ただ二人の名前や添え名から人物像の想像を膨らませることはできた。そのためもはや私の自己満足みたいな内容になってしまったが……皆様も歴史を調べて断片的な情報から想像を膨らませてみてはいかがだろうか。
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なお、本記事で遂に100記事目となった。見切り発車出始めたnoteだったし、もともと飽き性だったため、1年以上継続していることも100記事も投稿できていることもとても新鮮で、我ながら驚いている。
今後も今回のように、明瞭でも斬新でもない、結論もふわっとした記事も増えていくかもしれない。
ただ書くことで自分の思考を整理できたり、他の方のご意見をいただけたりと、記事を書き始めて良いことばかりだと思っている。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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サムネイル:
フランシスコ・プラディーリャ・オルティス作『グラナダの降伏』1882年
Francisco Pradilla y Ortiz, Public domain, via Wikimedia Commons
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𝕏(旧twitter):@lizrhythmliz
更新履歴
2024/07/20 初稿
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