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【SH考察:095】アルテミシア占星術師説

Sound Horizonのキャラクターのうち、Moiraに登場するアルテミシアは巫女として死を迎える。
しかし彼女は単なる巫女ではなく、精度の高い占星術の心得があったのではないだろうか。今回はその巫女兼占星術師像について考えたいと思う。


対象

  • 6th Story Moiraより『星女神の巫女 -Αρτεμισιαアルテミシア-』

考察

Αρτεμισιαアルテミシア

巫女であり占星術師だった?

アルテミシアは星女神の神殿で巫女として生きていたようだが、実際には占星術師としての要素を持ち合わせた役職だったのではないだろうか。

そのように考えられる理由は大きく2点ある。

  1. 黄道十二宮こうどうじゅうにきゅうを気にしている

  2. ハウス(しつ)の概念がありそう

理由について詳しく述べるより前に、まず占星術とは何かから確認する。
占星術とは、宇宙を観測し星々の動きを読み取り、人間への影響を解釈する技術のこと。
ただし古代では天文学と占星術が混同されており、さらに天体を操作しようという魔術的な考え方まであった。今回はそのあたりの細かい区分けはせず、一緒くたに占星術と呼ぶ。

占星術では、ホロスコープという天体の配置図を用いて個人の運命を占う。このホロスコープで、黄道十二宮やハウスが重要な役割を担っている。

図:ホロスコープの例
2000年1月1日午前0時1分(アメリカ東海岸表標準時)、ニューヨークでの天体の位置を計算したもの
出典:Fred the Oyster, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ホロスコープを用いることで、ある特定の場所や時点における惑星の配置を表し、運命を読み取ることができるとされている。

黄道十二宮

アルテミシアは星女神の巫女として過ごしていたが、その間に黄道十二宮を気にしている素振りを見せる。

嗚呼...開かれし《黄道十二宮ὁ τῶν ζῳδίων/ホ トーン ゾーイディオン

Sound Horizon. (2008). 星女神の巫女 -Αρτεμισιαアルテミシア- [Song]. On Moira. KING RECORD.
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり

天球、つまり地球を中心にして天を球体としてとらえた際に、太陽が通るルートを黄道と呼ぶ。そしてその黄道を12等分にし、分けた部分ひとつひとつに星座由来のきゅうを当てはめたものが黄道十二宮だ。サインとも言う。

紀元前当時は、黄道上に見える星座の位置がそのままきゅうの位置だった。
しかし現代では年月の経過に伴い、実際に星座が見える位置と割り当てられたきゅうの位置がかなりズレている。

図:黄道十二宮
黒い点は各宮の始点
出典:Macalves, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

占星術はメソポタミアで始まり、ギリシャで受け入れられ、神話と融合した。惑星に神由来の名がついていたり、星座の逸話にギリシャ神話が頻出することからわかる。
例えば木星はギリシャ語でΔίαςディアスといい、ゼウスのこと。星座ならば双子座はギリシャ神話に登場するカストルとポリュケデウケスという双子のこととされている。

占星術におけるハウスと神殿

『星女神の巫女 -Αρτεμισιαアルテミシア-』の歌詞をブックレットで確認すると、【獅子宮Λέων/レオン】【双子宮Δίδυμοι/ディデュモイ】【乙女宮Παρθένος/パルテノス】のところにいずれも神殿が描かれている。

御子みこは星屑の矢で誰を射る?
天球そらまにまに...嘆くのは獅子宮Λέων/レオン
(中略)
巫女は星屑のに何を観る?
天球そらまにまに... 揺れる双子宮Δίδυμοι/ディデュモイ

運命Μοίρα/ミラまにまに... 揺れる堕ちる乙女宮Παρθένος/パルテノス

Sound Horizon. (2008). 星女神の巫女 -Αρτεμισιαアルテミシア- [Song]. On Moira. KING RECORD.
※ルビは書き起こしのため誤差がある可能性あり

この神殿は、占星術におけるハウスの概念を表しているのではないだろうか。

ハウスとは、人生におけるさまざまな懸案(金銭や結婚、死など)を12のカテゴリに分類したものだ。
これもまたホロスコープ上に描くことができ、前述の十二宮や惑星の配置との組み合わせで、どのハウス(懸案)がどのような運命なのかを読み取る。

そしてこのハウスのことを、古代ギリシャではτέμενοςテメノス(神殿)と言った。
つまりアルテミシアの上記のシーンは、占星術で黄道十二宮とハウス(=テメノス=神殿)の組み合わせを確認している様子をイメージさせる。

アルテミシアの不思議な力

そもそも彼女が巫女になったのは聖女ソフィアの導きに起因している。ソフィアはミーシャの「不思議な力」を見抜いたからこそ、巫女に推薦したようだ。

聖女は少女の不思議な力を見抜き
彼女が生きる道と術を示した

Sound Horizon. (2008). 聖なる詩人の島 -Λεσβοςレスボス- [Song]. On Moira. KING RECORD.

ここまでくると、ミーシャの不思議な力とは類稀な占星術の腕、精度の高さだったのではないだろうかと考えることができる。

彼女はレスボス島に流れ着いた際に視力を失っていた可能性があるが、手元でホロスコープを確認するならば、使う道具で物理的な凹凸を作って利用したり、操作性で何とかなりそうだ。少なくとも夜空の星を直接視認して判別するよりも可能性が現実的だろう。
(ちなみにMoiraのストーリーコンサートでは視力を失ったような描写だった一方、Neinの『愛という名の咎』ではそのような様子は無かった。そのため視力の状態は定かではない。本当に星から何か啓示を授かっていたのかもしれない)

結論

アルテミシアには占星術のスキルがあったのではないだろうか。星々を利用して運命を読み取る力であり、星女神を祀る神殿で巫女を務めるに相応しい力とも言える。
(占星術で読み取った結果を、星女神からの神託と言えたかもしれない)

そして彼女は自らの運命を占い、死を悟り、それでも抵抗せず身を任せたのではないだろうか。

なお古代ギリシャの史実において、ホロスコープの普及が明らかに確認できるのは紀元前2世紀。もう少し遡って、占星術の基礎が築かれたのは紀元前3世紀。
個人的にMoiraはさらにその前の暗黒時代に入るかどうか(紀元前12世紀頃)と考えているため時代が合わないのだが、アルテミシアの能力の参考として今回まとめてみた。

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マスコット画像:
「Sound Horizon」×「カラコレ」ミニフィギュア(筆者所有)

参考文献:
羽仁 礼(2009). 『図解 西洋占星術』. 新紀元社
藤村 シシン(2024). 『秘密の古代ギリシャ、あるいは古代魔術史』. KADOKAWA

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

𝕏(旧twitter):@lizrhythmliz

更新履歴

2024/06/15 初稿

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