徳島市長・徳島幸子の幸運

「今日も運がいい!」

 私は笑う、信号も一つしか引っ掛からなかった、ガソリンも残り半分ある、通りの古い町並みを曇り空からちょっとだけ陽が照らして、暑くも寒くもない。

 カーディガンを持ってきてよかった、最近ほんとう天気予報当たる、で、今日も市長のお仕事、お仕事、ダーリンがいっつもおにぎりわたしてくれるから頑張れるの♪名前も知らないコンビニ店員だけど。

 いいのよ、徳島市長の私が、コンビニのイケメンに声掛けたら、政治家として市民の声を聞きたいかセクハラじゃない。 

 セクハラはだめよ~、だめだめ。

 あぁ、そう、いつもここの路地混んでるのよね、で、道路拡張の意見が出てるのよね。

でもここの土地高いから……徳島市のとこなら勿論、この、徳島幸子にお任せあれ!

 あぁ、選挙懐かしい。

 あ、ついた、さぁ今日も市議会、市議会。

「全く、こんなこともわからないんですか、だから子供のいない人は……」

うわっ、こっちみんな。

 なんだよもう、私の心はダーリンのものなの。こうなりゃ心の中で禿ネズミ福山にしよう。

「徳島市長」

「あ、えっと、確かに佐藤議員のおっしゃる通りで……」

 セクハラ発言は相手にしないに限るんだ、だって今は開かれた政治、この市議会の様子だってちゃんと動画サイトにUPされてて、変な言動は炎上、危ないのはあいつらのほう。

 だいたい、なんだってこんな女性少ない議会で、私が一人頑張ってるかというと、なんだっけ。なんで私国会議員でもなく、総理大臣でもなく、徳島市長かっていうと。

 ダジャレ。

 うん、それだけ、仕事なくてプーだったし。

  

 私は本当にプーだった、仕事もなんだかよくわからない理由で首になってから次見つからずにバイトの面接すら引っ掛からずに、そんな時、ふと、某巨匿名大掲示板を見た。

 私の仕事があった。

 市議会委員。

 若くて、プーなら、やってみろ。

 そう言ってくれた人がいた。どんな人かもわからない、でも、確かに選挙のポスターはおっさんばっかりで、女ってっだけで投票してくれる支持者もいるかも……。

 よしっ。私は色々ググった、なんとかお金は仕事しながらコツコツ貯めたのがあった、本当は婚活に使うつもりだったやつが……私は「実行力」と「実績」に疑問持たれるかもってネットで……なんでよ、やらせてくれなかったこともたくさんあるくせに、今度は実績を問うの?

 でも、ある日「ボランティア募集」の作業所チラシみて、確か女性議員ってそういうの求められがちだなってーだめだったらそこでバイトできそうだしー本当は給料欲しいけど、実家プーで作業所でwordとか経理ちょっとやって、けっこう重宝されたのよ?そう、私ってばやればできちゃうのよ。

 無給のボランティアに甘んじてる場合じゃなくない?

 でも「あくまで」ボランティアだからって……まぁ儲かってる作業所じゃなかったし……そんな色々ありまして!

 でもそこからなんとかNPOとかの顔見知りできて!立候補したら!

 受かったの!市議会委員!そっからついに市長にまでなりました!長かったよー。イケメンによしよししてほしいよー。

 みんな駄洒落だったのかもしれない、でも、徳島という名前で覚えてもらえて、私は本当に、運がいいの。

  結局、子供手当を増やす、財源は、って今日の議会は終わり。

  ね、少しずつ時代は進んでいるのよ。

  

 そんなある日、また今年も来た、「徳島市民病院祭り」。

  市立病院だから、一応これもお仕事なの、いつも市民が市民病院に集まって、色んな健康にいいことと、バザーと、あ、トクシィもくるんだ。今年はどうだろうって言う人もいたけど、こんな時だからこそ健康啓発しましょう、感染症対策ばっちりで、っていうことで、医師監修のもと、開催日が決まりました!わーいぱちぱち。

 今日の議題もそれ。

  まぁ例年通りでいいかぁ……。

「……というわけでどうでしょう、市長、バザーの儲けを障害者施設に寄付しては」

さすが福山、いいこと言う、って、えー?

 福山の言うには、作業所の経済事情はきつい(知ってる)。障害者がもっと豊かになって、経済活動ができれば、徳島ももっと豊かになる……。

 そんなこと言うキャラだったっけ?

 でも、その案は却下された、まぁね、公に呼びかけてしぶしぶやってもらっても、結局妬みから差別がひどくなるって意見が強くてね……。

  難しい問題だよね。あ、待って。作業所ならつてがあるの。早速私は議会が終わってから元ボラ先に電話。

「あ、おひさ、徳島だけど、ね、経済事情って教えてくれる……」

さて、仕事だ仕事。

 なんかね、聞いた。色んなこと、ググってググって、だいたい色んな難問ばっかりだから。

 あー難しい!こんな問題今日昨日になんとかできるはずないって!

 今年の市民病院祭りだけなんとかできたらいいの!って言いたいけど……。私……作業所のボランティア活動売りにして福祉に力をって公約しちゃったんだよな……。

 とりあえず元ボラ先に視察に行くことになった。「若葉」ここは脳性麻痺とかの障害がある人の社会参加を助けるために作られてて、指が動かない人とかの絵を主に売ってる。

  そう、口で筆もつの。

 状況を聞いた後、議会であった提案を言ったら「気持ちだけでありがたい」って……だから、私のバイト代も払えないのに。

  その時、ある利用者が「パパ」と笑った。

  視線の先に、福山がいた。

  公園で、福山と私でデートする。福山は黙っている、私の美しさに気づいたのね。吹石一恵さんごめん!

「……君が福祉関係者で、市長だから言うんじゃない、これは私の一人言だ」

照れちゃってもう

「私の息子は脳性麻痺を持って生まれた、自慢の息子だ、私は息子のために市議になった。君が市長になったときは驚いた、ついに、息子のことを考えてくれる市長が現れたと」

「あの、私あなたにここで会ったなんて誰にも言わないですから、帰っていいですか?」

私は慌てた。

「誰か聞いているのか、それはむしろどんどん言って欲しい、息子のためならそのぐらい。いいか、作業所もバザーに出すんだ、でも儲けは少ない、誰かさんのお手並み拝見したいとこだ」

えー、そんなー、まぁ福山の頼みだし。

 私はいつものコンビニへ。

 さぁ!イケメンがわたしのためにお酒とおつまみを用意してくれるの!

「いらっしゃいませ、あ、市長さん、また来て下さいましたね」

「そうなの、会いにきちゃった。あ、このキノコパスタもちょうだい」

「たまには自炊したほうがいいですよ、そうだ、こないだ野菜を切って一緒にレンジにかけるだけのシチューでたんです、ここ野菜も扱ってますしどうですか?」

えー、商売上手ー。

「あなたがやってくれるならいいけど」

「え……」

しまった、セクハラ市長って週刊誌に書かれちゃう。

「ごめんね、仕事あるのに」

店員さんはしばらく考えて笑って言った

「じゃあ、市長さん、いつも買うレモンサワー箱で買ってくださいよ、そしたら僕運ばなきゃならないから」

えーうそ、いいのー?

 ご一緒しちゃった。あ、でももう家だけっ……やばっ。

「待って待って待って!私部屋全然」

「ちょっと部屋汚いぐらい気にしないですよー。あ」

店員さんは箱を置くと、本当にゴミ屋敷の私の部屋を見渡した

「あぁ、まぁお仕事お忙しいししょうがないですよ」

「そうだよね、たまにお母さんが掃除しに来てくれるし、最近はプロ頼もうかって」

と、私はゴミだらけの上に座布団をしいてパソコンを叩く。

「うん、やっぱりそう、この収支じゃかろうじて黒字だ……何か資料が……」

私は本が詰まった本棚から本を出した

「そう、この人、HPあったよね?そしたらアポ取って……私なりの考えだと……」

私は仕事モード、店員さんは言った

「徳島さんはなんで市長になったんですか?」

「運いいことに名前が徳島だし、ダジャレ」

わたしは笑った

「そんなわけ!徳島さんはこんなに頑張ってるじゃないですか!もっと実力を誇っていいです!」

お、おぉっ?そんなに瞳みつめちゃいやん

「なんかちょっとがくってしました、酒置いたし帰りますね」

えぇー帰っちゃいやぁ。ダーリーン。

 店員さん帰っちゃった、しょんぼり、まぁでも、かたっぱしから当たったら、なんか手伝ってくれそうな人ができたしいいか。

  病院祭り当日。

  みんなマスクで、建物入り口には消毒用のアルコール、このご時世を早く終わらせるためにも健康には気を付けましょう、放送が流れる。

  トクシィもいた。

  で、今日はね、秘密兵器があるの。

  じゃーん!

  障害者アートニーズ上げる君!

  えっとね、連絡とったコンサルタントにね、今までの「若葉」の絵を見せて、売れるためこれを使ったどんな商品がいいかアドバイスもらったの。

  そしたらかっこいいグッズができて、ね、お客さんも大喜び、無事、「若葉」コーナー売り切れ!

  あー、よかった。わたしがほっとしたら

「あら市長さんよ」

「あらいやだ、ひそひそ……」

何?わたしそんなに美しいかしら~って

「コンビニ店員の鈴木さんと密会ですってー」

「嫌ねー」

えー?誤解誤解!あれお酒届けてもらっただけだし!

 ポン、わたしはスマホの画面を見る

「徳島市長徳島氏コンビニ店員Sと密会の夜」

ネットニュースになってるー!


「どういうことですか徳島議員」

次の国会では当然、その話題。

「誤解を招き申し訳ございません、ですが、あのコンビニ店はいつも利用しており、酒を箱で買ったため宅配をしてもらっただけで……」

「?病院祭りのことです、コンサルタントにいくら払ったのですか」

あれ、福山やっぱりクール。

「あ、そっちですか、市の財政は圧迫しません。ちゃんとわたしのお金で……」

「そうじゃないんです、証人を呼びますね」

福山が柏手を打つと、出てきたのは、車椅子に乗った、息子さん。

 えと、協力はうれしい、たくさんうれた。でも、市長さんにお金出してもらう、よくない、ぼくたちにもプライドがある。ちゃんと、もうけから、だす。こんどのことで、やりかたわかった、だいじょうぶ。

 つっかえつっかえ話す息子さん、福山の息子さんってやっぱイケメンだったんだ。

  結局、儲かったって言ってもコンサルタントに払うお金には届かないから少しずつ出してもらって、残りは市から貸すってことにした。

  あぁ、でも、こういうことになったら、もうあのコンビニ行けないなぁ……。

  イケメンやーい。

「あ!市長さん!」

それなのに、店員さんはガラス越しに見てたわたしに駆け寄ってきた

「僕、特定されちゃいました!おかげで、みんな買っていく、買っていく」

そんな、笑うとこなの?

「……だいじょうぶ?」

しおらしい女を演じる私、

「そんな、スマホで写真撮る人たくさん来たんで、買い物したらいいですよーってしたくらいで」

店員さんは笑ってる、そう、でも

「ご迷惑じゃ……」

そうよね、こんなアラサー……

「え?僕、佐藤さんのこと、好きですよ?」

あっけなかった、名前を教えてもらって、え、そんなSNSまでいいの?

 うそ、でも、大人の魅力たっぷりの私ですもの、考えてみれば当たり前っていうか……。

私も一応公式の持ってたから、相互しちゃった、てへ。

 あぁ、でも、ネット記事になったことには変わらない、政治家生命がー。

「あぁ、佐藤市長、この人は……」

あ、福山だ、福山は野次馬でいっぱいなコンビニで回りに聴こえるように言った

「お酒届けてくれたって店員さんですね、お疲れ様です。今度私の所にもお願いしますね」

なんだそうだったの、野次馬は帰った。

 なんか禿ネズミが、本当に福山に見えてきた、既婚者なのが惜しい!

「もっと、僕たちを頼って下さい、市長さん」

店員さんが笑い、福山も眼鏡をくぃっと上げる。

「……全くだ」

 徳島の人はみんな優しい、私は徳島に沢山恩返しがしたい、だから私は市長になった。

 こんなに支えてくれる人がたくさんいて、私は本当に、運がいい……違う、これがほんとうの私の、徳島のみんなの協力のちから。




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