見出し画像

初めての骨折

やっちまったーー!!!
地面にひっくり返った蝉のように私は自力で起き上がれないでいた。
「大丈夫ですか?」
近くにいた男性が2人、駆け寄ってくれて、私の上に被さっているバイクを起こしてくれる。ほっ何とか起き上がれる。幸いなことにあたりに車はいない。
「すみません、ありがとうございます。大丈夫です。」
生まれたての小鹿のようによろよろと起き上って礼を言う。
男の人って、こういう時に親切でいいね、呑気な事を思いながらバイクをチェックする。
破損、左ウィンカーライト
あーあ、また修理代がかかる。舌打ちしたくなる状況でエンジンをかけて何とか出発。
破損したのは、ウィンカーライトどころか足の親指だった、と遅まきながら気づいたのは帰宅してから。変形したかわいそうな親指を見た時だった。
「やばい、大丈夫じゃないじゃん」

雨の日はバイクに乗らないと決めていた。
それは衣服やカバンが濡れて居心地が悪くなるのが嫌だから。
でも、もっと大事なことがちっともわかってなかった、雨の日のバイクは危険だと言うことだ。特に50CCのバイクは。

その日は雨続きで気分がブルーで、小雨だったし、少しくらいなら、という想いがあった。
住宅街の道で、直送しようとした横の道路が少し広かったため、一旦急ブレーキをかけたところ、車体が右にスリップした。
あっという間だった。速度は出していなかったため膝はかすり傷で済んだが、重いバイクの下敷きになり、足をやられた。

「親指を骨折してますね。ヒビがあるでしょう?全治3ヶ月、運動ができるまで戻るのに半年ですね。」
初めて行った整形外科の先生は非情にもそう仰った。
なんてこと、、、
身体を動かすのが大好きな私に、半年も我慢しろと?
言葉が頭で咀嚼できずに抜けて遠くへスルーする。
「明日から東京へ出張なんです、行ってもいいでしょうか?」
頭が回らないのでばかな質問をする。
「今は緊急事態宣言中だから、東京に行くのはよろしくないですね」
は?そこですか??
そう言えば初診のアンケートに最近緊急事態宣言中の県に行ったかと言う質問があった。そんな患者には来てほしくないってことか。

そもそも引越し先の慣れない土地で一番困るのは医者と美容院探しだ。最近はクチコミがあったりするので、それを参考に近くの医者を検索したところ、クチコミ4.5とすごく評判のいい医院を見つけたのがここだった。駅近なのもありがたい。
案の定整形外科はジジババさんで待合室は満員だったし、先生は一人一人の患者さんへくどいほど丁寧に説明していて、結局終わるまでに2時間コースだったけど、そこは折込済み。でもなるほど、クチコミ評価が高い理由はここだった。

松葉杖を勧められたが、今時骨董品のような「松」葉杖を見た時にはやんわりと固辞し、翌日予定通り東京の出張先へ向かったのは、言うまでもない。

〔続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?