2024年1月8日(に書いたけど続きはもう書けないので途中書き)

 突如として、聞いたことのない、激しい、いかにもロックンロールかのような音楽が鳴り出した。
いや、あれはひょっとしたらヘビーメタルだったのかも知れない。

だってその激しいメロディーに合わせて、誰かの叫び声が聞こえたから。
あるいはその界隈ではそれを「歌声」と表現したのかも知れない。
でも普段からバラードしか聞かないわたしにとって、それはただのノイズだった。
被せて意識の向こうがわで自分の息遣いが荒くなっていくのを聞いた。

その両極端な音が、どちらに抗うこともなくただひたすらわたしの脳内に響き続けた。


時間はわからない。

どのぐらいの間わたしはああしていたのだろう。
10秒かもしれない。でももしかしたら2分ぐらいはそうしていたのかも知れない。

あの晩から3日がたった今、思い返すと夢だったのかと思うぐらい現実的でない時間だった。
聞いていない。
あんな雑音に支配されるだなんて。

あの刹那的な一瞬はこの世界中を探してもどこにも見つけられない。
だってわたしの脳内にしか存在していないから。
わたしの人生において、あんなにも大きな大きな、きっと一生忘れることのない時間になるだろうに、その事実はわたしのこの脳みそしか知らない。

もしなにかがあって、わたしが記憶喪失になんかなろうもんなら、この事実はこの世界から一瞬にして消え去る。

よく見るとわかる。
わたしの首にしっかりと染み付いている赤い跡。
力の入ったその一部分しか、跡にならなかった。
ぐるりと囲われるわけじゃなかったから、まるでキスマークをつけられたようで余計に恥じた。
タートルネックを着て必死に隠した。
そんな浮かれた話ではないのに、そんな浮かれた人生を歩んでいるような人間とは無関係でありたかったから。

声が出なくなった。
2日間はつばを飲み込むだけでも喉が痛み、その痛みは鈍くなりながらも今もしぶとくそこに張り付いている。
か細い声しか発せられないわたしの喉は、もはやそこにあるだけなのに、わたしの所有物だとひどく実感させられた。

あの晩、わたしの首には、わたしの体重なんかでは千切れることはない頑丈に編まれたロープが食い込んでいた。
オンラインショップで購入したとき、とにかく確実であるようにと証明書付きの頑丈なロープを選んだから。

わたしは死のうとした。

遠ざかる意識の中で「死んではいけない」と思った、のかも知れない。「生きたい」なんて思わない。

いや、「死んではいけない」なんて思ってない。
思うわけない。

というよりも、あの瞬間だけはそんなことを考える余裕さえなかった。
ああ、そうか。どれだ強く死を願っていたって死の直前にはそんなことすら考えさせてもらえないのね。
少なくともわたしは。
「死にかけた人」の後日談などで、「走馬灯のように」とか「今死んだら後悔する」とか、そんな余裕のある死は羨ましい。

わたしは無意識に、反射的に生き返った。

私の頭を通して、首に巻きついた白く輝くロープが抜けなくなっていた。きつくきつく、わたしの首にくいこんでいた。

一瞬焦った。
死ねなかったわたしにではなく、食い込んだロープから抜け出せず、間抜けにもベッドの柵の囚われの身になっていたわたしに。
とんでもなく格好悪い。

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