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ジェルム〜宝石の島〜 第8話『双子島』

 洞窟を出ると、一面の銀世界が目に入った。初めて見る雪に目を奪われかけたが、すぐに我に返った。きっとリリアンがいたら、真っ先にはしゃいで呆れられていただろう。テッドにとって当たり前だったそれは、彼女がいなくなって初めて、大切な思い出だったことに気がついた。当たり前だなんて、思ってはいけない。何としてもリリアンを助け出さなくては、テッドはそう思いながら拳を握りしめた。
 イヴェールの街は島の南に位置している。テッド達がいるのは島の北のため、今日は野宿する必要がある。ここでまたもヴィオラの魔法……ではなく、彼女の持ち物が役に立った。
 「マジカルテント」というそれは、どんな環境でも適応したテントが即座に作られるという。難点は人数制限があること(ヴィオラの物は五人まで)と、使い捨てであるといったところか。中に入ると、外からは想像もつかない広さと、ちょうど良い暖かさだった。特に広さに関しては、街にある宿一軒分くらいあるのではないかと思うくらいだ。五人分ももちろん個室で、温泉も付いている。本来ならはしゃいでしまいそうになるが、それはリリアンがいる事が大前提だ。テッドは早々に床についた。翌朝、豪華な食事をいただき、テントは役目を終えた。
 島を南下していると、やがて教会のようなものが見えてきた。あれが街のシンボルなのだろうか。家もチラホラ散見される。イヴェールの島は「双子島」と呼ばれているらしいが、他に島は見当たらない。一体、何が双子なのだろうか。
 街の門の前に着いた。門には「イヴェール」と書かれている。テッドは街に入るなり、酒場を探した。すると、街の西側に宿屋と併設されているものがあったので、そこへ向かった。何人かに氷の塔について尋ねたが、全員が首を横に振った。

「おかしいですね。確かにイヴェールにあるはずなのに……」
「誰か、誰か知らねーのか……」

 結局、酒場で有益な情報は得られなかった。同時にディーンのことも尋ねていたが、こちらも有力な情報はなかった。振り出しに戻るどころか、全く進めていない状況に、テッドは少し苛立ち始めていた。
 すると、どこからかギターの音色が聴こえてきた。音につられて行ってみると、噴水の近くでギターをかき鳴らす老人がいた。

「あの……氷の塔という場所をご存知ないですか?」
「いやぁ……知らんねぇ」
「そうですか……」

 ギターを奏でながら、老人は応えた。テッドが諦めかけた時、ギターの音色が止まった。その指は、教会を指している。

「あそこの教会に行ってみると良い。あそこの嬢ちゃんなら、何か知ってるかもしれん」
「本当ですか!?ありがとうございます!」

 深々とお辞儀をすると、テッドは教会へ走り出した。慌ててヴィオラとザンも後を追う。やがて、ギターの音色がまた聞こえ始めた。

 イヴェールの街にある教会は歴史がある、と酒場で聞いた。古くからある建物で、奥には美しい女神がふたつの「月」を携えている様子が描かれたステンドグラスがあるという。教会の扉が開くと、まさにそれが目の前に広がった。女神というに相応しい白いローブを纏った女性が、左手には黄色い三日月を、右手には青い三日月を手にしている。ふたつの三日月は対象的になっているように見えた。思わず息を飲むほどだった。

「神に導かれし者達よ。教会へようこそ」
「こ、こんにちは」

 中央の祭壇らしき場所から女性がやってきた。年齢不詳な雰囲気の女性は、首から金色の十字架をかけていた。恐らくこの女性がこの教会のシスターだろう。ギターの老人が言っていた「嬢ちゃん」とは、この人物だろうか。

「氷の塔について、何か知っていませんか?」

用件を聞かれる前に、テッドは質問を投げた。すると女性……シスターは驚くこともなく、むしろ笑みを浮かべる。まるでテッド達のことを待っていたかのようにも見えた。シスターは金色の十字架を手に、口を開いた。

「この島が何故"双子島"と呼ばれるか、ご存知ですか?」
「いや……」

 テッドもドロシーも、ザンでさえも、首を横に振った。シスターは振り返り、ステンドグラスを眺めながら続ける。このイヴェールの島は二つで一つの島であり、過去にはもう一つの島が存在していたこと、その島は今は封印されていること、そして、その封印された島にこそ、氷の塔があるということ。

「封印を解くには、どうしたら……?」

 テッドの質問に、シスターは金色の十字架を握りしめて答える。

「この金色の十字架には、対になる"銀色の十字架"があります」

 二つの十字架が一つになる時、このイヴェールの島は真の姿を現すという。そして、今がその時なのだと。

「銀色の十字架は、この街の東にある"ジェミニロード"に眠っています。それを手に入れたら、ここへ戻ってきていただけますか?」

 テッド達は頷いた。早速ジェミニロードへ向かおうと、お礼を告げて立ち去ろうとすると、シスターは引き止めるようにこう言った。

「覚えていてください。私が今お話ししたことは、全て昔の話に基づくものです。二つの十字架が揃っても、もしかしたら双子島は真の姿を現さないかもしれません」
「それでも構わない。それでも、オレは氷の塔へ行かなくちゃならないんだ。大切な人のために」
「わかりました。あなた方に、神の御加護があることを」

 シスターは金色の十字架をテッド達に向けて、祈った。テッド達は再度お礼を告げて、教会を後にした。彼らが教会を去ると、シスターは振り返り、ステンドグラスに映る女神を見つめた。

「私は、貴女になれるのでしょうか……」

 ステンドグラスの三日月は、シスターに応えるようにキラリと光った。

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