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ジェルム〜宝石の島〜 第22話『謀反』

 翌朝、四人は宿屋のエントランスに集まった。全員、何かを決意したような顔つきだった。

「行きましょうか」

 リリアンの声かけに、三人は頷いた。
 ジェルム城へ向かおうとする三人を、テッドが呼び止める。決戦を前にと作った、四人お揃いのブレスレットだった。願掛けみたいなものだけど、と言うテッドに、そういうの嫌いじゃないとヴィオラ。全員の右手に同じブレスレットが付けられ、改めて四人はジェルム城へと足を運んだ。
 城の前には、大勢の民衆が詰めかけていた。どうやらザンが何かしているらしい。民衆をかき分け、なんとか城の門を潜ると、それをジャネルが横目で見ていた。リリアン達が何かを知っていると悟った彼女は「頼んだよ」と呟いた。
 王の間へ到着すると、玉座の前でザンが王を人質に取っているのが見えた。四人に気付くと、自分達の前へ来るように告げた。

「さあ、グロリオサ王……いや、テンマ・ムラクモと呼んだ方が良いかな?」
「ムラクモ、だって……?」

 ムラクモ。それはアスカの姓と同じだった。

「そうさ。本物のグロリオサ王も、俺達の両親も、みんなこいつが殺したのさ!」

 リリアンが事故ではなかったのかと問うと、あれはまだ幼いお前についた嘘だとザンは言った。幼かったリリアンは覚えていなかったが、リリアンの両親は、まさに自分達の目の前でテンマ・ムラクモに殺されたのだと。そして更に続ける。

「こいつは俺の持っているブラックオニキスが欲しかった。だが、これのせいで俺達の両親は殺されたのさ」

 リリアンの両親は、自分達の死期を悟ったのか、ブラックオニキスをディーンへ託していた。そして両親が殺害されてから、ブラックオニキスの持つ力についての研究に明け暮れた。ただ、まだリリアンが幼かったのと、自分の知識が乏しい事もあったため、解析に十五年もかかってしまった。そうして得たブラックオニキスの力が、この"ザン"だった。
 ザンになってから、グロリオサ王の懐へ入るのは難しくはなかった。魔族としての姿を見せ、テンマの目的である魔族の復活と繁栄を成し遂げたいと言うと、あっという間に側近にしてくれた。自分にとって、魔族など許し難い存在であったが、忠誠のポーズとして、テンマが望む各島の石を集めたのだ。

「き、貴様……守護石を集めたらどうなるのか、知らないのか?」

 テンマが問うと、知らないわけがない、そうザンは返した。研究の中でそのくらいの知識は持っていた。そう言うと、ザンはテンマを解放した。

「では見せてもらおうか、四つの守護石の力を!」

 ザンはテンマの体の中へ、四つの守護石を埋め込んだ。緑に、赤。黄色に、青に……一つ一つ取り込まれる度に、眩しい光がテンマを包んだ。そしてテンマの瞳が赤く光る。とてつもない地鳴りが響いた。四人は思わず目を閉じる。
 何が起きているのだろうか。光が弱まり目を開けると、そこにいたのはテンマではなく、黒い竜だった。

「四つの守護石が暴走する時、彼の者、漆黒の竜へと変貌せり……だったかな。ククク、本の通りじゃないか」

 物言わぬ竜と化したテンマは、ザンに向けて吠えるだけだった。

「このままとどめを刺してもつまらないな……そうだ」

 ザンがパチンと指を鳴らすと、黒い竜はリリアン達の方を向いた。まるで操られているかのようだった。

「さあ、親子対決でもしてもらおうか!」

 くくく、とザンは笑った。リリアンとテッドには信じられなかった。目の前にいるこの男が、この残酷な男が本当に兄なのかと。だが悲しい事に、それは疑いようのない事実だった。驚く二人を他所に、ヴィオラはアスカの様子を窺う。

「……」
「心配してくれているのかい?」

 まるで心中を察したかのような問いに、ヴィオラは頷く。大丈夫、そうアスカは告げた。

「もともと死んだと聞いていたし、それに……父さんと呼べる程、尊敬できる存在でもなさそうだからね。それなら僕は、自分の過去と決別したい」

 そう言って、アスカは刀を抜いた。ヴィオラも杖を構える。

「リリアンとテッドは、どうしたい?」

 アスカが尋ねると、リリアンは一度目を閉じた。一瞬のうちにたくさんの景色が過ぎっていった。深呼吸をして、目を開く。

「あいつはもう、兄さんじゃないわ。アスカが前を向くのなら、わたしも前を向きたい」

 リリアンが言うと、テッドがポンと肩を叩いた。武器を構えた四人は、リリアンの合図で散った。ヴィオラの魔法に、テッドの踊るような剣技。黒い竜は翻弄されていた。そこへリリアンの矢と、アスカの刀が追い討ちをかける。
 しかし黒い竜はなかなか倒れない。腕を振り上げ、リリアンを突き飛ばすが、テッドが受け止める。次にアスカ目がけて炎を噴いてきた。こちらはヴィオラが魔法で防ぐ。連携プレーは、ばっちりだった。
 迷いのない四人にとって、黒い竜はそれ程怖い者ではなかった。押し気味の四人の前に、突然黒い壁が現れる。


「ここまで押してくるなんて、ちょっと想定外だったな。俺の予想は共倒れだったんだけど……」

 黒い壁が消えると、ザンが黒い竜の頭の上に立っていた。

「悪いけど、とどめは俺が指すよ。復讐なんでね」

 そう言うと、暗黒の剣で黒い竜の頭を貫いた。あっという間の出来事だった。黒い竜は何も言わず、その場に崩れ落ちた。黒い光に包まれると、取り込んでいた守護石が一つ、また一つとこぼれ落ちていく。そして最後の守護石がこぼれると、黒い竜はテンマへと姿を変えた。

「"ツマラナイ"な……」

 そう言うと、一つ一つ守護石を拾うザン。そして拾った守護石を眺めて、繰り返した。

「ツマラナイ、ツマラナイ、ツマラナイ!」

 四人はただ驚きながら、ザンを見ていた。一体何がつまらないのか、何を考えているのか、全くわからなかった。

「さあ、最後のショータイムの準備といこうか」

 ザンは自分の体に、四つの守護石とブラックオニキスを取り込んだ。テンマの時よりも禍々しさが増大した、赤黒い光がザンを包む。光が消えると、赤い瞳と白い髪はそのままに、竜のようなしっぽと翼、角を持ちながら、人の形をしたザンがそこにいた。禍々しさを感じさせつつも、どこか美しさを感じる姿だった。

「君達を"魔界"へと招待しよう。そこで最後のショータイムといこうじゃないか」

 ザンは笑いながら姿を消した。魔界とは。一体どうやって行くのだろうか。三人はアスカを見たが、彼は首を横に振った。生まれがジェルムである彼にとって、それは見知らぬ世界だったからだ。それはリリアン達も同様だった。

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