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ジェルム〜宝石の島〜 第19話『それぞれの事情』

 オトヌの島に来た時に見た、頂上の見えない塔は、目の前に来てもその頂を見る事はできなかった。ただ、雲に突き刺さるその姿は、積み上げられただけの歴史を感じさせた。
 中は入ると、螺旋階段がひたすらに続いていた。真上を向いて見るが、やはり頂上はよく見えなかった。一体どのくらい高いのだろうか。四人は思わず息を呑んだ。アスカは少しだけ、足が震えていた。

「こんな時に話すのはなんだけど……」

 アスカは口を開き、三人の前で左側の前髪を払って見せた。そこにはザンと同じ、血のような真っ赤な瞳があった。

「それって……」
「驚かないで、っていうのは無理があると思う。でも……みんなには聞いて欲しい。この瞳と、僕の血の事を」

 そう言って、アスカは自分が"魔族"の生き残りである事、そして人間と魔族の間に生まれた"ハーフ魔族"である事を話し始めた。魔族は既に滅ぼされたとされていて、アスカは自分意外に"赤い瞳"を持つ者はもうらいないと思っていた。しかし、ザンの瞳は時に自分と同じ赤い瞳に変化する。あの瞳は魔族の物で間違いないはずだが、変化はしない、と。

「純血じゃないっていうのはわかったけどー、じゃああいつは何者なのー?」

 それはアスカにも、誰にもわからなかった。ハーフであればアスカのように左右違う色の"オッドアイ"になるという。変化というのは、見たことがない。

「ってーと、あいつは何者なんだ?」
「僕は……それを知りたい」

 魔族の話をしながら、頂上へ向かった。ただし、アスカ自身は幼い頃の記憶がほとんどない事、ジェルムの貧民街で暮らしていた事等、彼の過去についてがメインだった。それでも、普段の飄々とした様子からは想像もつかない程の出自であり、三人はただただ驚くばかりだった。
 頂上までは、まだまだありそうだ。

「さて、僕の話はこのくらいにして」

 まだまだ頂上まではありそうとの事で、アスカはヴィオラの肩を叩く。身の上話はヴィオラへとバトンタッチされた。

「あたしー?そうねー……」

 ヴィオラがエルフ族というのは周知の事実であったため、エルフ族について話す事にした。平均寿命か七百歳前後であるエルフ族は、三百歳くらいで体が大人になり、成人するという。ヴィオラはまだまだ育ち盛りで、三人姉妹の末っ子だ。エルフ族は里に住んでいる者が殆どだが、ごく稀に里の外に住んでいる者もいるらしい。特に仲が悪いというわけではなく、都会に住むか田舎に住むか、という程度の違いだそうだ。
 エルフの里に住むエルフは、百歳くらいまでの幼い間は学校に通う義務があり、そこで魔法を習うらしい。そのため、里の外で暮らしている者の半分くらいは、魔法を使えない血だけの者だという。学校でのヴィオラの成績は非常に悪く、常に下を争う存在だったらしい。トップはもちろんジュリアンである。その名を出す際、ヴィオラは少し声を震わせた。
 まだ頂上は見えない。


「……っはい次ー!テッド君ー!」
「オレかよ!?」

 テッドはプランタンの村で暮らす鍛冶屋の息子であり、そのためか手先が器用である。その器用さは折り紙付きで、戦闘スタイルはもちろん、彼の身につけるアクセサリーにも反映されていた。夢は特にないが、いつかは家を継ぐのだろうと、なんとなく考えている、と。リリアンの兄、ディーンには小さい頃から可愛がってもらっていた。だからこそ、突然姿を消した理由が知りたくて、リリアンと共に旅に出たのだ。
 頂上が見えてきたが、まだまだありそうだ。

「ほい。最後はリリアンな」
「やっぱりわたしか……」

 リリアンは口を開いた。テッドとは幼馴染であるが、実は生まれはジェルムだと言う。

「あれ、そうだったか?その割にはジェルムに初めて行ったような素振りだったよな?」
「うん。ジェルムにいた頃はまだ物心がついていなくて、ちゃんと覚えてはいないから」

 ジェルムからプランタンへ引っ越してきた時、リリアン三歳、ディーンは七歳だった。年齢の違いテッドとはすぐに仲良くなったという。
 そして五歳の時、両親が事故で亡くなり、ディーンと二人で力を合わせて暮らしてきた。そのため、研究の中身はもちろん、今回自分を連れて行ってくれなかった理由を知りたかったのだ。

「家族二人だけだから、隠し事はできるだけない方がいいかなって思って……」

 頂上はもうすぐだ。

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