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ジェルム〜宝石の島〜 第14話『夏の夜』

 涼しい風の正体は、夜だった。満天の星空に、一面の砂漠。これがエテの島なのだ。夜である事に違和感を覚え時間を確認したが、まだ正午頃であった。島同士で時差があるのだろうか。もしくは。

「ずっと……夜の島……?」

 リリアンが呟いたが、きっとそれが正解だろう。
 エテの街は、島の南東にあるのだが、島の中央にそびえる高い山ーー火山のようなものーーがあり、今いる場所からは見えなかった。一見立派なこの火山。仮に噴火したとなれば、この島全体を軽く飲み込んでしまうだろう。
 島の外周をグルリと周るように進んでいくと、やがて街のような白亜の建物の集落が見えてきた。一面の砂漠地帯のオアシス。まさに、そんな言葉が似合う。
 街の入り口には、一人の少女が立っていた。明らかにオロオロしており、誰かを待っているようだった。彼女はリリアン達を見つけるなり、駆け足で寄って来た。

「あ!あの!わたしとよく似た子を見ませんでしたか?」

 四人は顔を合わせたが、全員が首を横に振った。そうですか……と落胆する少女に何があったのかと聞くと、ここではなんですからと、彼女の家に行く事になった。そんな少女に聞くのは野暮かと思いつつ、ディーンのことを聞いてみると「見ていない」と、ある意味予想通りの答えが返ってきた。

「おじい様!」

 一軒の家の前に着くなり、少女は叫びながら家へ入っていった。リリアン達も続く。すると、リビングルームと思しき部屋の奥に座っている、80歳くらいの老人がいた。

「なんじゃ。アンリか。どうしたんじゃ、一体……」

 アンリと呼ばれた少女の後ろにいたリリアン達を見て、長老である老人はだいたいの状況を察したようだった。リリアン達は自己紹介と、自分達の目的を話した。しかし、やはりディーンについての情報は得られなかった。

「旅の方々。すまないが……力を貸してくれんかの」

話によると、アンリの双子の弟、ライトがたった独りで火山へ行ってしまったらしい。火山の中に咲いている赤い花を持ち帰る事ができれば、次の街の長になれるという。本来であればその儀式は十六歳で行うのだが、アンリ達はまだ八歳。しかし、長老自身は病気もあり、いつ亡くなってもおかしくはない状況だと言う。それを知ったライトは、独りで火山へと旅立ってしまったというのだ。

「リリアン。どうする?」

 兄がここにいないとわかった以上、今すぐにでもここを出てオトヌの島へ向かいたかったが、幼い少年を見捨てるという行為は、リリアンにとって残酷すぎた。テッドもヴィオラもアスカも、リリアンの判断に任せるといった形で、彼女の返答を待っていた。

「みんな、ごめんね」

リリアンは口を開いた。次に出た言葉は「ライト君を助けに行こう」だった。三人も予想はついていたので、その決断を笑顔で受け入れた。

「すまないの、旅の者達よ……」
「いいんだよじいちゃん、ありがとう、で」

 テッドが返すと、長老は涙を隠せなかった。思わずもらい泣きしてしまいそうになったが、それはライトを助けてからだ。目的が決まると、彼等は出発の準備をした。

「あの、皆さん。わたしも、連れて行ってくれませんか……?」

 アンリが言う。長老はそれを止めたが、リリアン達は快諾した。きっと自分が逆の立場でも、そうしたいと思っただろう。
 アンリとライトはいわゆる"ハーフエルフ"で、アンリは回復魔法、ライトは攻撃魔法が使えるらしい。彼女達の両親は既にこの世におらず、同じく両親を亡くしているリリアンは、自分とディーンをこの二人に重ねたのかもしれない。
 そして長老に聞いてわかったのは、ライトが向かった火山にルビーが眠っていると言う。ザンが現れる可能性も考えつつ、ライト救出へと向かうのだった。

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