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ジェルム〜宝石の島〜 第7話『冬の訪れ』

 イヴェールへ向かう洞窟。ジェルムの人はこれを「冬の訪れ」と呼ぶらしい。入口付近はジェルムと同じくらいの暖かさだったが、吹きつける風は冷たく、奥へ進むごとに少しずつ涼しくなっているのがわかる。

「うう……」

 明らかに寒そうな声をあげたのはテッドだった。それもそのはず、彼の服には「袖」がない。ノースリーブであるため、冷たい風が直接肌に当たるのだ。リリアンもショートパンツではあったが、白衣で隠れる部分が多かったため、テッド程寒くはなかった。ドロシーのローブは魔法の繊維でどんな気温にも対応できるとの事で、テッドはそれが心底羨ましかった。

「大丈夫ダイジョーブ!凍ったらすぐ溶かしてあげるからー」
「むしろ……今炎をくれ……」

そんな会話をしつつ、時にはモンスターと戦いながら、三人はまた光の柱の前に到着した。今回はジャネルの言った通り、兵士がいる。

「この先へ行かれるのなら、手形を見せよ」
「これでいいんだろ?」

そう言えば、リリアンとテッドはジェルム王から手形をもらっていたが、ヴィオラは持っているのだろうか。テッド、リリアンの順に手形を確認する兵士。そして、ヴィオラの前で立ち止まった。

「……よし!通れ!」

ヴィオラの手にも手形があった。リリアンとテッドは驚いて声を出しそうになったが、そうなればドロシーが怪しまれてしまう。あくまで平静を装いながら、兵士と離れた時にこっそり聞いてみた。すると。

「テッドのを魔法で複製しましたー」
「すげえな……」
「ちなみに複製したのはテッドので、本物のテッドのはあたしが持ってまーす」
「おま……」
「しっ。声が大きいよ」

兵士がこちらを見ている。後で返すからとヴィオラは言っていたが、テッドはまだプリプリしているようだった。
そして、二人にとっては二度目の光の柱。

「オレ、これ苦手なんだよな……」
「あ、そうだった」

リリアンが鞄から飴玉のようなものを取り出した。

「酔い止め。効くかわからないけど」
「サンキュー!助かるぜ」

そう言って飴玉を放り込む。オレンジのような甘酸っぱい味が、口いっぱいに広がる。テッドがあまりにも美味しい顔をするので、味が気になった二人も結局飴玉を舐めた。
 リリアンにとっては、プランタンからジェルムへの移動の時に勇気をくれたテッドへの、お礼のつもりだった。この旅では、テッドには感謝しきれない程、いくらお礼をしても足りない程に救われていた。もし一人だったら……今どこにいるかもわからない。もしかしたら、プランタンから出られなかったかもしれない。
 光の柱を超えると、涼しさは寒さへと変わった。兵士に会釈をする。さすがに寒すぎるのか、ドロシーに暖の魔法をかけてもらった。地面も凍っているのか、時折パリパリと音を立てた。

 滑らないように気をつけて歩いていると、突然ヴィオラが立ち止まった。その先には、ヴィオラと同じくらいの年齢と思しき子供がいた。

「あー!あんた!なんでここにー!」
「あっれー?ヴィオラじゃーん!奇遇奇遇ー」

容姿だけでなく、話し方まで似ていた。エルフ族とはみんなこんな感じなのだろうか。

「えー!ヴィオラってば、カワイイ子連れてんじゃんかー!いいなあー」

そう言って、エルフの子供(年齢はリリアンより上に違いない)はリリアンの周りを駆け回った。いいないいなと叫ぶ姿は、まるで駄々をこねる子供そのものだった。何度も言うが、年齢はリリアンより上に違いない。

「そうだ。結婚しよっか」

エルフの子がそう呟くと、リリアンは突然大きな鳥籠に閉じ込められた。同時に、リリアンは気を失ってその場に倒れた。

「ばか!ジュリアン!何考えて……」
「何だよ、結婚式に参加したいのかー?しゃーねーなー、じゃあ氷の塔で待ってるから、来いよー?」

そう言った瞬間、黒い何かーー光のように見えたーーが、鳥籠をバラバラにした。

「一方的な感情の押し付けは、感心しませんね」
聞き覚えのある声に、黒いマントが翻る。白い髪がなびいた。
「ザンさん……!?」

そこにいたのは、グロリオサ王の隣にいた黒い鎧の男。暗黒騎士のザンだった。ザンは、リリアンを抱きかかえるとジュリアンに黒い刃を向けた。ジュリアンは両手をあげ、降参のポーズを取る。そしてザンが剣を納めたその時だった。

「ばーか!諦めるわけないじゃーん!」

手品のように、リリアンがジュリアンの側に移動した。反撃する間もなく、彼は姿を消した。リリアンと共に。

「ちょっとビックリしたけど、参列者が増えるってことで、じゃあなー」
「待てっ……!」

以降、何も聞こえなくなってしまった。ディーンを探さなくてはならないのに、一番ディーンに会いたがっているリリアンがいなくなってしまった。まずはリリアンを助けなくては。しかし、氷の塔とは何なのだろうか?どこにあるのだろうか?どうすればーーそう思っているところに、ザンが声をかける。

「イヴェールへ行きましょう。氷の塔は、そこにあります」

私も共に参ります、そうザンは言った。これ程頼もしいことはない。同時に、気を抜いてなんかいられないと思うテッドだった。


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