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ジェルム〜宝石の島〜 第24話『最後の戦い』

 空は暗く、紫色でどんよりとしている。雲の隙間からあちこち閃光が見える。雷だろうか。リリアン達が踏み締めている大地には、目の前に入り口のある大きな木があるだけで、他には何もなかった。海も河も無く、ただ平坦な大地が広がっているだけだった。ここが、魔界。
 あの大きな木で、ザンは待っているのだろう。ここまで来たら、ザンを倒すしか道はないのだ。四人は警戒しつつ、大樹の麓でマジカルテントを張った。確信はなかったが、恐らくこれが四人で過ごす最後の夜になるであろうと、誰もが感じていた。
 特に多く語る事もなく、いつも通りに四人は過ごした。特別な事をしてしまうのが怖かったからかもしれない。いつも通りに冗談を交えて話すヴィオラに、いつも通りに大食いのアスカ、いつも通りにドジを踏むテッドに、いつも通りに笑うリリアン。何気ない時間だが、とても大切に思えた。
 翌朝。朝と言っても、空は全く変わらない。テントを仕舞うと、四人は大樹の中へ入っていった。大樹の中は空洞で、所々に蜘蛛の巣ができている。時に戦いながら、時に蜘蛛の巣を壊しながら、四人は先へ進んでいく。
 武器のせいもあるかもしれないが、四人は着実に「強くなっている」と感じていた。大樹のモンスターもかなり強いが、不利になる事はなかった。とはいえ体力にも限度はある。小休止を挟みつつ、頂上を目指して行く。

「リリアン。テッド。ありがとねー」

 突然、ヴィオラがそんな事を口にした。

「今ならあたし、エルフの魔法学校で首席取れるかも」

 本気なのか冗談なのかわからない一言に、思わず噴き出した。そして、もう卒業しちゃってるから無理だけどね、とも。
 四人で過ごした時間は、決して長いものではなかったが、どこを取っても濃密だった。今なら相手が何を考えているか、手に取るようにわかる。全力で任せる事ができる。こんな風に思える仲間ができるなんて、四人のうちの誰もが想像できなかった。


 頂上へ着くと、一人の男がそこにいた。ザン・N・メイドとして、四人の前に幾度となく立ちはだかった男。一度も勝利した事のないこの男との最後の戦いが、間もなく始まる。その姿は今までで一番禍々しく、しかし美しいものだった。

「今は荒廃しているけれど、昔は大きな街があって、あそこには大きなお城があって……それはそれは、繁栄していたらしいですよ」

 ザンは両手を広げた。同時に、翼も広がる。

「ようこそ、魔界樹へ。なんて、私も初めて来たんですけどね」

 その姿にディーンの面影はなかった。兄はもう、どかにもいない。リリアンは悔しかったが、もし兄の面影があったら、きっと戦えなかった。その点だけは、ザンに感謝すべきなのかもしれない。

「さあ、始めましょうか。最後の戦いを」

 ザンは自らの体を浮かせ、リリアン達は散った。ザンの攻撃を喰らうと、リリアンの調合で回復させる。ヴィオラの呪文で攻撃力を強化するが、なかなか素早く、攻撃を当てる事ができない。白い竜に強化してもらった武具は、まだ真価を発揮できないでいた。

 ザンの主な標的はやはりアスカで、彼目がけて攻撃を仕掛けてくる事が多かった。そこに目をつけたリリアンは、自分の調合とヴィオラの魔法でアスカの防御力を極限まで強化し、アスカにザンの攻撃を可能な限り受け止めるよう頼んだ。アスカは頷くと、積極的にザンの攻撃を受けに行く。刀と剣がぶつかり合う音が何度も響き渡り、その度に火花が散った。

「……もらったあ!」

 一瞬の隙をテッドは見逃さなかった。テッドの一撃がザンの脇腹に入り、体勢を崩しかけた所にヴィオラが追い討ちをかけた。二人の武器の石が、少し輝きを取り戻したようだった。ザンは今度はテッド目がけて攻撃を繰り出すが、テッドは持ち前の素早さでなんとか回避していた。そこに数本の矢が打ち込まれる。リリアンの武器の石も、少し光りだした。

「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる、かーー」

 そう言うと、アスカも攻撃に転じた。刀に自分の魔力を込めて振りかざす。アスカの石も、光り始める。そうしてリリアン達は、次々と武器に光を取り戻させていった。それと同時に、ザンの動きが少し鈍ってきているのに気が付いた。どうやら、攻撃が当たる度に守護石の力を吸収しているようなのだ。
 四人の武器が眩く輝いた時、ザンは膝をついた。もう少し、そう思った時だった。

「まだだ……まだ、終ワラセナイ……!」
「な、何なの……!?」

 ザンの体を黒い光が包む。一体、彼の何がここまでさせているのか、四人には全くわからなかった。彼の目的が復讐であるならば、それは既に成就しているはず。

「……」

 四人の頭の中に、白い竜が語りかけた。今のザンは、純粋に戦いを求めているだけだと。ブラックオニキスの暗黒の力に完全に取り込まれてしまい、自分を見失っている、と。武器に宿った守護石の力と水晶の力で彼を解放しなければ、この戦いが終わる事はない。白い竜はそう言った。
 四人は互いを見つめ合い、頷いた。武器の石を共鳴させ、その中心に水晶を置いた。水晶から放たれる虹色の光がザンに向けられる。

「やめろ……ヤメロー!」

 ザンは叫ぶが、その光を避ける事はできなかった。体がボロボロになり、崩れ落ちていく。空を仰いで叫び続けた彼の声は、彼の消失と共に聴こえなくなった。すると、エメラルドやルビー、ブラックオニキスがころりと地面に転がった。

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