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ジェルム〜宝石の島〜 第12話『シスターの願い』

 リリアンが目を覚ましたのは、イヴェールの宿屋だった。どうしてここに?と思いながら体を起こし、リビングルームへ向かうと、テッドとリリアンがいた。
 何があったのかと問うが、二人ともわからないようで首を横に振った。ただ、ヴィオラの話によると、宿屋の人が言うには"黒い鎧の男"が三人を運んできたという。"黒い鎧の男"……間違いなく、ザンだろう。そして、彼はもうここにはいないと。

「最初からあの石が目的だったみたいだね」

 あの青い石は一体何だったのか。それも疑問だったが、三人が悲しかったのは、自分達が利用された事。そしてそれにより、命を落としたジュリアンの事。

「ドロシー……ジュリアンの事……」
「大丈夫。あいつ、元々危なっかしい所があったから……いずれこうなるって……」

 その後「ごめん」とだけ言うと、ベッドルームへ行き、扉が閉まった。
 ザンの事は確かに不明な事だらけだが、結局この島にもディーンはいなかった。ヴィオラをそっとしている間、酒場で聞き込みをしてみたが、手がかりすら得られなかった。彼は今、どこで何をしているのだろうか。一度、ジェルムに戻ってみようという話になった。王ならば、もしかしたら何か知っているかもしれない。
 二人がイヴェールの街の門をくぐった時だった。何かが猛スピードで追いかけてくる。

「ちょっとー!なんであたしを置いていくのよー!」

 ヴィオラだ。先刻とは打って変わって、いつものヴィオラに戻っている。とはいえ、二人は心配そうに声をかけた。

「そりゃショックはショックだけどー、いつまでもクヨクヨしていられないじゃないー?あたし、ジュリアン以上になってみせるもんねー」

 とても前向きなヴィオラは、姿こそ少女だが、やはり大人だと思った。二人の方が、余程暗い表情をしていたのかもしれない。リリアンとテッドは、逆にヴィオラから元気をもらった。いつか必ず兄に会う、と。

「それよりもー、いつからこんなに吹雪いてんのー?」

 二人はすっかり忘れていた。この銀世界に慣れてしまったせいか、ディーンの事で頭がいっぱいになっていたせいか。イヴェールの島は、ひどい吹雪に襲われていた。


「テッドさーーーん!」

 呼ばれて振り返ると、シスターがやってきた。昨日何かおかしな事はなかったか、氷の塔で何かあったのかと問われた。ジュリアンを倒してリリアンを助けた事、ザンに襲われた事以外は特に何もないように感じたが、隣にいるリリアンは少し考え込んでいた。

「そういえば……」

 リリアンは自分の手に握られていた青い石と、青い竜の話をした。あのパイプオルガンの部屋(パイプオルガン自体はジュリアンの魔法による物)には、もともと青い竜がいたと。それを邪魔に思ったジュリアンが倒してしまったらしい。一連の話を聞くと、シスターの顔色が変わった。

「まさか……"守護者"まで倒してしまうなんて……」

 驚きを隠せないシスターに、リリアンは問うた。"守護者"がいなくなる事自体はそこまで影響はないのだが、問題は青い石ーーサファイアというらしいーーを持ち出した事で、この島の均衡が崩れてしまったと言うのだ。この吹雪もその影響だという。
 ザンの考えはシスターにもわからなかった。ただ言えるのは、他の島にも青い石と同じような守護石が存在するらしい。ザンの目的次第ではあるが、このままでは他の島もおかしくなってしまうかもしれない、と。
 リリアンがプランタンでモンスターが現れ始めた話をすると、それも恐らく守護石の影響だと言う。春の石ーーエメラルドーーも、既にザンの手中にあるだろう、と。

「こんな事、皆様にお願いすべきではないと思いますが……」

 シスターは、他の島の石はなんとか守ってほしいと言われた。残っているのはエテのルビーと、オトヌのトパーズ、ジェルムのクリスタルの三つ。ジェルムのクリスタルも既に奪われてしまっているかもしれない、と続けたが、ジェルムでは目立っておかしな事は起きていないように感じた。もしかしたら、最後に狙うのかもしれない。

「リリアン、どうする?」

 リリアンは考えていた。ディーンを探すという大元の目的に、石を守るという事をプラスする事自体は問題ないが、相手がザンだという事が引っかかっていた。目の前に立ちはだかった時、撃破できる自信がなかった。そしてそれは、テッドとヴィオラも同様だった。考えた末に出した結論は。

「100%約束はできませんが、尽力します」
「ありがとうございます!皆様に、神のご加護を……」

 そうして、三人はイヴェールを去った。

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